この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

レオナルド×ミケランジェロ展

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レオナルド×ミケランジェロ展|三菱一号館美術館(東京・丸の内)

幸運なことに先日、ブロガー内覧会に招待されたので、その時の様子をレポートします。

 

※画像は主催者の許可を得て撮影しました。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)とミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564)。このルネサンス2大巨匠の名を冠した展覧会は今迄数多く開催されてきたが、この2人を直接対決させる展覧会が日本で開催されるのは今回が初めて。海外でも殆ど前例が無いらしい。

 

この2人の年齢差は23歳。年齢差はあっても、お互いの事をライバル視していた。

素描や、スフマート技法の絵画作品のイメージが強いダ・ヴィンチだが、彼だってミケランジェロのような彫刻作品を制作していた。ただ、戦争に巻き込まれたり等色々あって、完成には至らなかった。

 

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『馬の前脚の習作 /スフォルツァ騎馬像のための習作』レオナルド・ダ・ヴィンチ

 スフォルツァ騎馬像はこの素描のように、前脚を蹴り上げたポーズをブロンズ像として制作しようとしていたようだが、それでは構造上無理があったようだ。

 

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『マドリッド手稿』II(ファクシミリ版) レオナルド・ダ・ヴィンチ

 それでもレオナルドは、馬の頭部から頸部にかけてのパーツを鋳込む手法を、右ページに描かれているように、丹念に練り上げていったようだ。

文字は全て、右から左に書かれている。レオナルドと言えば鏡文字。

自分はこの展示で初めて、レオナルドがこんなに馬を描くのにこだわっていた事を知った。

 

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今回の展覧会で目についたのは、両者の発言がいっぱい壁に掲げられている事。

これは絵画至上主義のレオナルド発言に対する、ミケランジェロの反撃。

 

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「アントニオ、素描しなさい。素描しなさい。」

と、ミケランジェロに発破をかけられているアントニオって誰よ?と思ったら、この引用文が掲げられている壁の1つ手前の部屋に、そのアントニオの素描画が展示されていた。

 

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ジョヴァンニ・アントニオ・ボルトラッフィオ 『茨と葡萄の葉の冠をかぶった若者の頭部』

 うむ。確かにミケランジェロとレオナルドの2大巨匠の素描と並べられると、この絵の影の薄さが際立つ。

 

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『聖アンナと聖母子』レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく

 これはウフィツィ美術館が所蔵しているヴァージョン。ルーヴル美術館にある原画を、弟子が直接見ながら模写した作品ではないかと言われている。

 実はちょっと前に読んだ『「モナ・リザ」ミステリー』という本の中で、オリジナルの『聖アンナと聖母子』には、足元の暗い部分に胎児と胎盤のようなものが描かれているという、何とも不気味な事が書かれていたので、この作品を見た時はちょっとビクッとしたのだが、オリジナルじゃないから、全然そんなものが描かれている気配すら感じなかった。

 

 ミケランジェロの大型大理石像が初めて日本にやって来た。

今回の展覧会のビッグサプライズは、ミケランジェロの2mを超す大理石像が日本で初めて見られるという事だ。

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『十字架を持つキリスト(ジュスティニアーニのキリスト)』ミケランジェロ・ブオナローティ(未完作品、17世紀の彫刻家の手で完成)

 普段はショップとして機能している1Fの部屋にドーンと置かれている。そりゃ、こんな大きな像は、2F以上のこじんまりとした展示室には持っていけないよな。

内覧会があった日はちょうどこの作品の公開初日で、学芸員の岩瀬慧さんが、ここに運ばれて設置されるまでの苦労話を結構生々しく説明してくれた。

なんでも、設置する向きを確定してから厳重な封を開いてみたら、見事に反対方向で、この取り扱い厳重注意物をクレーン(ジャッキ?)で持ち上げるという荒技に出て、事無きを得たようだ。あぶないあぶない。

 

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この彫刻作品は、ミケランジェロが顔の部分を彫り進めていったところ、ほうれい線の部分に黒い疵が現れたので、制作の手を止めてしまったそうなのだ。

その後、注文主から再度依頼を受けて新たに完成させたキリスト像は現在、ローマのサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ大聖堂で見る事が出来る。

いわばそちらは2作目で、こちらは最初のヴァージョンという事になるのか。

しかし、全裸のキリスト像って、それまでの常識としてはあり得なかったのではないか。キリストとギリシャ彫刻との合体。

一部後世の彫刻家が手を加えているとはいえ、身体の根幹部分はミケランジェロ本人によるものだというのは、この色っぽいポーズが何よりも証明しているのではないか。

 

この作品は撮影可能だそうです。日中は自然光が入るので、夜間とはまた違った雰囲気で堪能出来ると思います。

 

この展覧会の見どころは、本人たちの超絶技巧を堪能するのも勿論だけど、彼らが作り上げた、または作ろうとしていた作品を、直接の弟子や後世の人達がどう学んで受け継いでいったかというのが、ここに来れば感じ取れるという事かな。

弟子達が到達出来なかったのは、この2人の巨匠の作品が醸し出す、人知を超えた神秘的な“ムード”か。その辺の違いを感じ取れるのも魅力になっている。

ちょっと駆け足気味で見たので消化不良です。9月24日まで開催しているので、もう1回観に行くつもりです。図録もかなり充実していて面白そうなので、それもじっくりと読みたい。

 

開催概要

会期:2017年6月17日(土)~9月24日(日)
開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜休館(但し、祝日は開館)
主催:三菱一号館美術館、日本経済新聞社、テレビ朝日
後援:駐日イタリア大使館協賛:損保ジャパン日本興亜、大日本印刷協力:アリタリア-イタリア航空
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)