この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

ヴァロットン ― 黒と白 展 (その2)

その1からの続きです。

※画像は主催者側の許可を得て撮影しています。通常は一部エリアを除き、撮影禁止です。

 

ミシア・ナタンソン(セール)

ヴァロットンは1893年ロートレックゴーギャン、ボナール等がいる『ナビ派』という芸術グループの一員になります。

スイス人なので、『外国人のナビ』と呼ばれました。

 

その頃、『ラ・ルヴュ・ブランシュ』というナビ派を中心に紹介するアート誌を主宰した、タデ・ナタンソンと知り合います。

この雑誌のシンボル的存在だったのが、当時彼の妻だったミシア・ナタンソン。

 

彼女はナビ派の画家達のモデルとなり、数多くの作品に描かれました。

 


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画像奥の作品は、ロートレックが描いたミシア。

 

ヴァロットンが油彩で描いたミシアは、2014年の回顧展に出品されていました。

 

ミシアは、ココ・シャネルの親友として、自分は彼女の存在を知りました。

とても興味深い女性なので、いつか彼女をテーマにした展覧会が見たいです。フランスでは以前開催されたようです。そのぐらい、世紀末芸術における重要人物なのです。

 

ココ・シャネルといえば、同じく三菱一号館美術館で今年回顧展が開催されたばかりです。

 

シャネル展も、黒と白で構成された展覧会でした。

 

シャネルとヴァロットンは、直接の繋がりは無かったかもしれませんが、実はシャネルは、スイスのローザンヌに埋葬されているのです。

 

第二次世界大戦中の、シャネルの身の振り方がドイツ寄りだったため、フランス国内に居づらくなり、戦後数年間はスイスに暮らしていたのです。

 

そしてローザンヌといえば、ヴァロットン生誕の地でもあるのです。

 


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ヴァロットンも、当時のモードを積極的に描きました。

これは、帽子屋で帽子を選ぶ婦人たちの光景。

そういえば、シャネルも出発点は帽子デザインだったっけ。と思いながらこの絵を見ていました。

 

アンティミテ

 

ヴァロットンは、未亡人との結婚を機に、ブルジョワジーの世界に足を踏み入れます。

 

そこからは、密室で進行する室内劇のような情景を表現するようになります。


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アンティミテは、限定30部で出版された連作版画作品です。

 

裕福な環境であるが故に起こりうる、倦怠感も漂う男女の関係を、やはり外側の視点から描いています。


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こちらは版木の断片を組み合わせたものです。

 

限定刷りである事を証明する為に、刷った後は版木をバラバラにしたのです。

ヴァロットン作品の版木は、こんなわけで殆ど残っていません。

今回の展覧会では、その貴重な版木が1点公開されていますので、お見逃しのないように。

 

 

アンティミテの連作版画は、アニメーション化され、会場内で公開されています。

写真、動画共撮影可能です。

 

ヴァロットンによる蔵書票


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蔵書票とは、書物の所有者が、この本は自分のものだと証明するために貼りつける、小さな署名付きの紙の事です。

愛書家達は、蔵書票のデザインを好きな画家に依頼し、作らせていたのです。

ヴァロットンも注文に応じ、幾つも制作しました。

 

蔵書票って、一人でこっそりと見て楽しむ用に考案されたものですよね。きっと。


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ヴァロットン自身も、本好きな人間だったのでしょう。多分。

 

今回の展覧会は、ヴァロットン作品を通じて、都市生活者とはこんな生き方をしている人達なのだよ。という事を示してくれたように感じました。

19世紀末も21世紀も、小道具こそは変わっても、都会人としての生き方は、既にこの頃にはパターンが確立していたのだなと。

客観的に、冷めた視線で描いているところが、現代的に映るのかもしれません。

 

開催概要
  • 会期 : 2022年10月29日 (土) 〜 2023年1月29日(日)
  • 休館日 : 月曜日、12/31、1/1 ※但し、 [トークフリーデー 11/28、12/26) 1/2、1/9.1/23は開館
  • 開館時間 : 10時~18時(金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21時まで) ※入館は閉館の30分前まで
  • 入館料 : 一般:1,900円 高校・大学生: 1,000円 小・中学生: 無料
  • マジックアワーチケット (毎月第2水曜日17時以降に限り適用) 1,200円
  • ※マジックアワーチケットは、 実施月の1日に 「Webket」内にて販売開始となります。
  • お問い合わせ : 050-5541-8600 (ハローダイヤル)
  • 公式サイト : ヴァロットン―黒と白|三菱一号館美術館(東京・丸の内)