この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

世界に挑んだ7年 『小田野直武と秋田蘭画』展のトークイベントに参加してきた。

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※まだ正式ヴァージョンではないけど、これが展覧会チラシ。折り曲げてしまった…。

 

先日サントリー美術館で、11月16日(水)から始まる『小田野直武と秋田蘭画』展のプレミアムトークショウが開催されました。

これは報道関係者向けに行われたイベントだったのですが、ブロガー枠で自分も参加する事が出来たので、その時に伺ったお話などを書き留めておきます。

 

小田野直武(1749~1780)は、秋田藩の角館に生まれた絵師。

名前は知らずとも、『解体新書』の図は教科書等で見た事がある筈。あの図版を描いたのがこの人。はて、何故秋田の人間がこんな西洋の図版を描いたんだろう?という疑問が沸いた。更に、この人が中心となって『秋田蘭画』なる西洋風絵画の流派が一時期ワーッと隆盛を誇ったというんだからますますわけわからん。

 

この辺の事を、プレミアムトークの登壇者である高階秀爾氏、田中優子氏、河野元昭氏が様々な図像を交えながら1時間ほど熱く語ってくれました。

 

自分が小田野直武という存在を強く印象付けたのは、重要文化財に指定されている『不忍池図』を、美術本かなんかで見た時だった。

不自然な陰影法で描かれた、風景画とも花鳥画ともつかない奇妙な作品が、司馬江漢よりも前に描かれていたという先駆性に先ず驚いたのだ。

で、解体新書の図もこの人の手によるものだという事を知り、更にビックリ!

 

江戸時代に出て来た『西洋風』云々は全て平賀源内がもたらしたものなのか? 

日本の伝統的な画を描いていた小田野直武が蘭画に走ったのは、平賀源内(1728〜1779)の存在によるものが大きい。

平賀源内といえば、エレキテルを作ったり、日本で最初に油絵を描いたり、江戸の万博と言える物産会を開催したり、本草学に詳しかったり、江戸時代のやたら色んなエピソードの中に名前が登場する不思議な人だ。

ここにも登場するのかよ!と正直思った。

直武は、安永2年(1773)に、鉱山調査で秋田藩を訪れていた源内と出会ったとされているが、詳しい経緯等は分かっていない。

しかし、これがきっかけで直武は江戸に上がり、源内の元で西洋画の技法を習得し、安永3年に『解体新書』の挿絵を担当した。

源内と直武との関係は、源内が罪を犯して投獄されて、獄中死した直後に30歳(数えで32)急死している事から、色んな説が取り沙汰されているのだが、ここでは割愛。

 

小田野直武は日本のフェルメールか?

 平賀源内は全国を飛び回っていた人だから、行く先々で秋田みたいな蘭画ブームが巻き起こってもおかしくない筈なのだが、何故か盛り上がったのは秋田だけなのである。

秋田藩主の佐竹曙山(1748~1785)、角館城代の佐竹義躬(1749~1800)といった若き秋田藩の武士達が、1773年から直武が謎の死を遂げる1780年までの7年間に、東洋と西洋を折衷させた、新しい絵画を次々と生み出していった。

何故秋田の、しかも角館という地域限定だったのか?

この辺を、秋田に縁のある御三方の登壇者は、ご自身の専門分野と照らし合わせて語ってくれた。高階氏は当時の西洋画の視点から。田中氏は江戸の物流のグローバル化から。河野氏は当時文化、商業共に栄えた角館という土地柄から。

なんでも、角館に生まれ、角館で若くして亡くなった小田野直武は、デルフトで生まれ、デルフトでやはり30代で亡くなったフェルメールに通じるものがあるのだとか。現存する作品数が少ないのも共通しているのか。

デルフトは港町で物流が盛んな町だった。それでフェルメールの絵には、当時最先端の雑貨等が数多く登場する。

直武の描いた『不忍池図』にも、輸入品みたいな壺が描かれている。

江戸の世というのは、自分が想像してきた世界以上に、豊かな物資が行き交っていた時代だったのかもな。

いや色んな濃いお話が飛び交ってて、目から鱗のひと時だった。江戸絵画、いや江戸時代そのものの魅力が、更により深まったような内容でした。

 

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この日の登壇者御三方。まさか生でお話が聞けるとは!

 ※画像は主催者の許可を得て撮影しました。

 

展覧会会期中なら、このような御三方の大変示唆に富んだお話を聞いたその足で実物にご対面となるのだが、公開されるのは2か月以上先の話。今回はお預けを食らってしまった形か。

その代わりと言っては難だけど、トークショウの後は、会期末が迫ったエミール・ガレ展を見てきた。外のうだるような暑さを忘れてしまうぐらい、ここはひんやりとした空気で、ガレの美しくもちょっと妖しい、ボタニカル的とも言える世界を堪能した。

11月にはどんな形で、小田野直武の作品をここで見られるのだろう?想像するだけでワクワクしてきた。

 

世界に挑んだ7年 「小田野直武と秋田蘭画」展 概要
  • 会  期:2016年11月16日(水)~2017年1月9日(月・祝) ※作品保護のため、会期中展示替を行ないます。
  • 主  催:サントリー美術館、朝日新聞社
  • 協  賛:三井不動産、三井住友海上火災保険、サントリーホールディングス
  • 会  場:サントリー美術館
  • 開館時間:10時~18時 ※金・土、および12月22日(木)、1月8日(日)は20時まで開館 ※いずれも入館は閉館の30分前まで ※shop×cafeは会期中無休
  • 休 館 日:火曜日(ただし1月3日は開館)、12月30日(金)~1月1日(日・祝)