この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

ニューヨーク在住で現代アートをひたすら集め続ける老夫婦を追ったドキュメンタリー映画。来月公開。
先日森美術館で行なわれた上映会&トークセッションにて、一足お先に見てきました。


無名の個人コレクターが収集する作品っていうと、未だ一般的にはある程度評価の固まった作家の作品だったり、具象画であったりする事が多いと思うのだけど、このヴォーゲル夫妻のコレクションはミニマル・アートと、コンセプチュアル・アートが中心。それは、コレクションをはじめた1960年代当時は、この辺が1番安かったからというのが理由だったらしいが、アートシーンの中心地がNYに移り、この地で活動するアーティスト達自身もまだ若くてもの凄く勢いがあったからだろう。
そんな刺激的な現場に身を置く事が出来た夫妻を羨ましく思ったのだが、その、作品の買い方とか、作品との付き合い方、作家さんとの交流の仕方とかは尋常じゃなく情熱的。わたしにとって1番衝撃だったのは、買った作品をまるでペットを飼うかのようにいとおしく付き合う所だった。
ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートを解説する文章は大抵抽象的で小難しい言葉が並び、読む者を煙に巻くのがオチとなっているのだが、そんな事をするよりも、このヴォーゲル夫妻のように、作品と共に生活してみる方が、よっぽどその作品の本質を理解出来るのではないかという事を、この映画は雄弁に語っていた。自分は今までアート作品を買いたいと思った事は1度もないのだが、気に入ったら、作品を所有するという選択肢も、これからは付け加えてみようかなと、ちょっとだけ思った。(あくまでもちょっとだけ…。)


トークセッションでは、監督の佐々木芽生氏と、サラリーマンで現代アートを収集する宮津大輔氏の対談が聞けました。宮津氏は自分の事を“サラリーマン・コレクター”と名乗ると、「サラリーマンをコレクションする人」と勘違いされる事もあるそうで。それぐらいまだ日本では庶民がアートを収集するという行為は一般的ではないのか。
でも、映画に映し出される小柄なヴォーゲル夫妻の姿やアパートの様子を見て、ふと思い出していたのは、家中を本で溢れさせていた植草甚一や、書斎に書物やオブジェが溢れかえっていた瀧口修造のような、文筆業を生業とする方々だった。ハーブ氏に文章を書かせたらどんな感じになるのかな?