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この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

堀内誠一 旅と絵本とデザインと

@世田谷文学館

堀内誠一の業績をまとめて見るのは今回が初めて。
まだ自宅の本棚の奥を探せば出て来そうな印刷物が、うやうやしく(?)展示されていて不思議でした。



うちは、母親が「ノンノ」派だった為、「アンアン」を自分で買ったのは1980年代に入ってから。なので、辛うじて堀内氏の活動の尻尾が掴めた程度。しかも、当時は軽く読み流してしまった。この人の記事の凄さに気付いたのは、相当時が経ってから雑誌を読み返した時でした。


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当時アンアンに連載していた「堀内誠一の空とぶ絨毯」。これを読み飛ばしてしまったのは、昔の自分は全く旅行に興味がなかったからというのもある。今でも出無精なのに変わりはありませんが。


絵本の世界 110人のイラストレーター 第1集絵本の世界 110人のイラストレーター 第2集
同じような感覚は、彼が編纂した「絵本の世界 110人のイラストレーター」を見た時にも味わった。この本には、「どうです?世の中にはこんなぶっ飛んだ絵本が存在しているんですよ!」と、押しつけてくるような力みが全くない。だから最初はさらさらとページをめくってしまう。しかしよく見ると、以前ここで取り上げた茂田井武の「三百六十五日の珍旅行」(id:almondeyed:20081115)を見開き2ページに、縮小して全ページ載せるという荒業を成し遂げている。うわーっ!全然気づかなかったよこれ。本人の風貌と同様、物腰は柔らかそうだけど、眼光は鋭い。やっぱり凄い本だ。


「旅」「絵本」「デザイン」の、どのセクションも見応えあったけど、特に「旅」が面白かった。堀内さんの活躍した時代になると、海外旅行も決して「一世一代の大仕事」ではなくなり、気軽に回れる余裕が出て来た。いや、まだネットのなかった時代だから、とことんアナログを駆使しているんだけど。手描きのガイドマップはクラクラするほど細かくて洒落てるし、アエログラムに書いた旅先からの絵手紙は、宝物になる程の質の高さだし、旅の御供には博覧強記の澁澤氏を連れ立って行けるような驚異の交友関係だし。これらの要素が相まって、旅ものの作品群は、一級品ならではの軽快さをも生み出している。


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パリ在住の日本人向け情報誌「いりふね・でふね」の表紙イラスト。まさかこれがポストカードになっているとは!絵が細かすぎて印刷が潰れているんですが。サンジェルマン通りの有名人達がぎっしり描かれています。


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コクトーと、その隣に座っているのはクリスチャン・べラール。ピカソは何故か闘牛の頭蓋骨と化している。可笑しい!


アンアンは、堀内誠一のアート・ディレクションによって従来のファッション雑誌のカタログ的要素から大きく脱却し、ファッション写真に物語性が吹き込まれた。同時期、ファッションショウは高田賢三によって、それまでのモデルが番号札を持ちながらただ歩くという形式から逸脱し、ショウの要素を取り込んでいく。60年代後半のヒッピー文化が、従来の価値観を崩していった形か。
堀内誠一は更に、物語性を強める試みとして、執筆者に澁澤龍彦を迎え、「血と薔薇」のエキスをアンアンにぶち込み、雑誌に陰影を付けていく。これらの試みは、後発の雑誌にも影響を与え、いつしか奇異なものではなくなっていった。


なんて教科書的解説はこのぐらいにして、作品を見ていて思ったのは、想像以上に作品傾向の振り幅が大きいなという事。とてもスケールの大きい人なのかもしれない。まだこの人について語られていない文脈が眠っているような気配を、会場にいながら感じたのでした。