この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

『種村季弘の眼』展


板橋区立美術館

じつは澁澤龍彦の本は何冊も所有しているんだけど、種村季弘の所有本は、それに比べるとかなり少ない。
でも、この展覧会は心待ちにしていた。

澁澤さんよりは種村さんの方がご長命だったので、最近まで雑誌等で書き下ろしの文章を目にする機会があった。だから、種村さんの存在の方が何となく身近に感じてはいたのだ。
でも、もう没後10年になるのか。早いなー。


展示されている人たちの名前をちょっと挙げてみる。

エルンスト、グランヴィル、クレー、野中ユリ土井典四谷シモン金子國義、フォーゲラー、中村宏マックス・クリンガーホルストヤンセン、エーリヒ・ブラウアー、エルンスト・フックス、ゾンネンシュターン、アルフレート・クビーン、谷川晃一、井上洋介ハンス・ベルメールetc…

字面を見ただけでときめきを覚える。
実際展示室で見ている時も、うわーっ!うわーっ!と、いちいち心の中で雄叫びを上げていた。
自分が今まで長い期間気にかけて見てきたものの、おさらいをしている気分だった。

この本も展覧会の参考資料として役立ちそうだった。

『夜想』19号 - この世はレースのようにやわらかい


それでも、初めて名前を知った作家の作品も数多くあった。
カール・ハイデルバッハの作品はその一つ。
『無題』と展示リストに書いてあった作品は、実際の展示ではプレートのタイトル部分が空欄だったので、尚更作品の不気味さが強調されていた。


この展覧会で特徴的だったのは、覗き込む作品が幾つも展示されていた事。
桑原弘明、池田龍雄、吉野辰海。そして江戸時代後期に造られた陶器の覗絡繰!これは初めて見た。ビックリ!

覗く行為を繰り返しているうちに、展示室全体がなんだか覗絡繰の内側にある世界に見えてきた。

高低差の世界

板橋区立美術館に行く時はいつも成増駅から向かうのだが、この駅は南口と北口の雰囲気が、線路を挟んで一変する。
北口の土地はガクーンと落ち込んでいるのだ。そして、起伏に富んでいる。

美術館へは北口から行くんだけど、一旦駅から階段を降りて、登り坂下り坂を乗り越えないと辿り着かない。結構坂もきついのだ。でも、成増駅側から見れば、全部そこから見下ろせちゃいそうな低さだという、この不条理さは何なのだろう?
今まで駅からの高低差なんて大して気にしてなかったんだけど、この展覧会を見て、またこのスリバチ状の土地を成増駅に向かって歩いていったら、今度は自分の歩く姿が高台の上から誰かに覗き見されているような感覚に陥って、なんだかへんな気分になった。
ま、これは成増から行かないと味わえないと思うんだけどね。


とにかく、これだけまとまった数の幻想関係の作品を一気に見れる機会はさほど多くないと思うので、上記した方々の作品に興味がある人は行っておいた方がいいです。あと、東京は決して平坦な土地じゃないというのも、ここに来ると分かると思います。(←そこかよ!)