この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

「テート美術館所蔵 コンスタブル展」

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三菱一号館美術館で現在開催中のコンスタブル展の、ブロガー内覧会に参加してきました。

 

ジョン・コンスタブル(1776-1837年)は、19世紀のイギリスで活躍した風景画家です。

というと、真っ先に思い浮かぶのはコンスタブルではなく、ターナーではないでしょうか。

ターナーの回顧展は、近年日本で見る機会がありましたが、コンスタブルの大回顧展が日本で開催されるのは、実に35年ぶりとの事。前回は何と昭和の時代だったんですよ!

 

本展では、好敵手ターナーの作品を並べる事によって、コンスタブル作品の独自性が浮き彫りになる仕掛けが施されています。

 

どちらの画家が好みかは、各々、本物の作品を見て判断して欲しいです。

 

自分が展示室で見た限りでは、ターナーは技術的にも上手いし、画面構成力も抜群だし、作品を遠くから見ていても目を惹きます。

 対するコンスタブルは、身の回りにいる人達や、風景を、愚直に写し取っていったような印象でした。

 

風景画の進化は、産業革命がもたらしたもの。

※画像は主催者の許可を得て撮影したものです。通常は許可された作品以外は撮影禁止です。

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コンスタブルは、イングランド東部サフォーク州のイースト・バーゴルド出身。のちにロンドンに生活の拠点を移しましたが、生涯この地に愛着を持ち、地元の風景を描き続けました。

このパネルを見ると、イギリスローカルで活動していたという事が分かります。

こういう所も、ローマに遠征して作品を制作したターナーと対照的です。

 

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コンスタブルの実家は製粉業を営んでいました。これは両親の肖像画です。

 

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館内で一番広い展示室には、戸外で描いた大型の油彩作品が展示されています。

これは、『フラットフォードの製粉所(航行可能な川の風景)』です。

19世紀当時の英国では、既に様々な画家によって風景画が盛んに描かれていましたが、その殆どは、スケッチを戸外で描き、室内で作品を仕上げていました。

 

コンスタブルは、画材の全てを戸外に持ち出し、ほぼそのまま戸外で描き上げたのです。

それは、風景と正面から向き合う為に選んだ手段であったのですが、同時に画材の発達により携帯が容易になったというのも関係しているのではないでしょうか。

 

更に、印刷技術の発達により複製が容易になったというのも、コンスタブルの名声を高めた要因になっているのかもと思いました。

 

というのも、自分は展示作品の中では意外にも、メゾチントによる版画作品に心を揺さぶられたからです。

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『麦畑』の油彩画と、デヴィッド・ルーカスによるメゾチント。

コンスタブルとデヴィッド・ルーカスは、浮世絵でいう絵師と摺師のような関係でした。

 

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2人のコラボが大きく実を結ぶのが、『イングランドの風景』という版画集です。

ここに描かれている雲は、摺師によってよりドラマティックになっています。

コンスタブルは、印刷物がもたらす明確な説得力を、熟知していたのでしょう。

それにしても、郡山市立美術館に、こんな素晴らしい作品が所蔵されていたとは!

 

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晩年に使われていたパレットも、特別に公開されています。

このパレットがイギリス国外に持ち出されるのは初めてだそうです。


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『虹が立つハムステッド・ヒース』

この作品は通常も撮影が可能です。

 

Store 1894の展覧会グッズが素晴らしい!

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画像ではよく分からないのですが、この黒のトーンがなんとも英国的で、グッと来ました。

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左側に写っているのは、画家のパレットがプリントされたトートバッグです。

パレットはキーリングやTシャツやピンズにも使われています。

グッズ的には、雲と空がプリントされたマグカップがヒットしているそうなのですが、自分的にはこのパレットがヒットしました。

 

右側に写っているのは、スリップウェア・ビスケット。

その名の通り、英国で伝統的に作られた陶器である、スリップウェアの模様を再現したもの。

職人さんが一つ一つ丁寧に手作りしたものだそうです。ミルクティにとても良く合うとのこと。

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ガーデニンググッズも取り揃えています。

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壁にかかっているラッピングペーパーが可愛い!

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ミニチュアキャンバス。このサイズ感がとてもいい。

 

なお、現在コロナ禍の影響で、イギリスから商品が届きづらい状況が続いているそうなので、画像に写っている商品も、ずっとあるかどうかは分かりません。

実際、3種類あるマグカップのうち、1種類は品切状態でした。

 

こんな状況の中でも、コンスタブルの作品を貸し出して下さったテート美術館には感謝!です。

 

基本的に、都市とは真逆の風景が描かれているのですが、背後からは産業の発展、ヒエラルキーの変化、近代的な価値観の萌芽が見られる展示内容でした。

 

ここでは詳しく書きませんでしたが、年を重ねてからロイヤル・アカデミーの正会員に選出された事。これも24歳で準会員に選ばれたターナーと対照的でしたが、これは、コンスタブルは19世紀の感覚にマッチした画家だった、という証明にもなっているのでは?

ターナーが正会員になったのは26歳で、19世紀にはなっていましたが、まだまだ18世紀から抜けきれてない時代だったでしょうから。

 

開催概要