この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

入門 墨の美術-古写経・古筆・水墨画 (その1)

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静嘉堂文庫美術館では、8月31日から『入門 墨の美術-古写経・古筆・水墨画』が始まっています。

この展覧会の、開催初日に行われた内覧会に参加してきました。

 

静嘉堂文庫の企画は、雛人形や刀といった、馴染みはそれなりにあるものの、ちょっと敷居が高そうなテーマが多いです。

今回は墨を主体にした作品の展覧会であるという事は即ち、書画の類が中心って事だから、やっぱり敷居が高いぞ。と、思っちゃったのですが…。いやいや、あまり詳しくない自分の目から見ても面白かったです!

 

中国伝来の「墨」は、古くから日本でも身近な筆記用具として、また画材として親しまれてきました。

水溶性で手軽な素材であるにも関わらず、耐久性は抜群。そのおかげで、書かれてから千年以上の時を経ても、まるで最近書いたかのような保存状態で、当時の作品を鑑賞する事が可能なのです。

そんな墨を用いて書かれた古写経、和歌等の仮名で書かれた古筆、そして水墨画を中心としたセレクションで、静嘉堂文庫が誇る名品を堪能出来るというのが、本展覧会の特徴となっています。

 

展覧会の感想を、印象に残った順に行き当たりばったりで書きます。年代順も何もあったもんじゃないですが、ご了承下さい。

 

※画像は主催者の許可を得て撮影しています。

 

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本企画展を担当した浦木賢治氏が、ギャラリートークで見どころを解説してくれました。静嘉堂文庫美術館での担当はこれが初めてだそうです。

 

本展覧会にはナビゲーターがいます。それは、垂幕に描かれている『カンザンくん』。

こちらのカンザンくんはキュートなキャラなのですが、オリジナルの寒山は、キャラ立ちがハンパない。

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寒山図』

寒山・拾得といえば大体奇天烈な表情で描かれているものなのですが、この寒山はカンザンくんと同じく(ていうか寒山こそオリジナル)、筆を持ち構えた立ち姿で、ニタリと笑っています。この表情がヤバいです!

これが描かれたのは中国元時代。中国人の感性だとこういうのが『カワイイ』と認識されるのでしょうか?いやいやいやいや…(と、心の中で頭を振る)。

この作品が最初に展示されている理由はきっと、寒山自身が筆を持っていて、その絵が多彩な筆使いで描かれているからでしょう。髪の毛の部分は、パサパサした筆でこすりつけているように見えます。

これと対になっている拾得図は現在、常盤山文庫が所蔵しているそうです。いつかこの寒山・拾得を並べて展示したいと、学芸員さんは仰ってました。わたしも見たいです。

 

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『四季山水図屏風』 伝 周文

 こちらは右から左に四季が移ろっていくさまを描いた、室町時代の作品。

おそらく昔の人はこれを、床に伏しながら眺めて楽しんだのでしょう。「臥遊」ね。

この屏風は3年をかけて解体修理され、本展が修理後初公開となります。以前よりもぐっと画面が明るくなったそうです。

昔の人達は、自ら出かけなくてもこういう屏風絵を見て、どこか遠くの世界に行った気分を味わっていたのかもしれません。

 

『詩画軸』の面白さに気づいた。

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今回の展示作品の中で特に興味深かったのが、これらの水墨画作品でした。

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『聴松軒図』

特にこの室町時代作の『聴松軒図』は、人物がどこにも描かれていないのに、なんとなく人の気配が感じられます。

上部には寄せ書きのような形で、五人の禅僧による詩が書き加えられています。

一人一人、字の違いがハッキリしているので、この軸自体がとても賑やかに感じられます。

画面の中には人がいないのですが、画面を眺める外側からの視線が感じられるという面白さ。

絵だけでは完成できない、「詩画軸」の魅力というのを、この作品を通じてはじめて認識しました。

今までも、文人画等で文字入りの掛軸を見てきたのですが、書かれている漢文は難しいし、あんまり文字が入っている意味を理解していませんでした。

しかし、書かれている内容が分からなくても、画と文字が書かれた時間のズレを認識するだけで、お軸を見る面白さはグッと増します。

このお軸なんて、文字が書かれている部分は、後から紙が継ぎ足されているんですよ!

 

今回はここまで。(その2)に続きます。

『入門 墨の美術-古写経・古筆・水墨画』展覧会情報
  • 会 期:2019年8月31日(土)~10月14日(月・祝)
  • 休館日:毎週月曜日(ただし、9月16日・9月23日・ 10月14日は開館)、9月17日(火)、9月24日(火)
  • 会 場:静嘉堂文庫美術館(東京都世田谷区岡本2-23-1)
  • 開館時間:午前10時~ 午後4時30分(入館は午後4時まで)
  • 入館料:一般1,000円、大高生及び障害者手帖をお持ちの方( 同伴者1名を含む)700円 中学生以下無料 ※20名以上の団体、200円割引
  • 主 催:静嘉堂文庫美術館(公益財団法人 静嘉堂
  • 後 援:世田谷区教育委員会
  • 一般のお問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • ホームページ:http://www.seikado.or./ jp