この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

ターナー 風景の詩(うた)

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turner2018.com

 京都、東京、郡山の3都市を巡回するターナー展が、 現在東京で開催中です。

 

先日、一般公開に先駆けて行われた、プレス内覧会に参加する事が出来ました。

※画像は美術館より特別の許可を得て撮影したものです。

 

ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)は、英国で最も偉大な画家と讃えられている。

日本でも昔から人気が高く、国内でもターナー展は決して少なくない頻度で開催されてきた。

 自分がこうした、ブロガー向けの内覧会に応募するようになった初期の頃にも、ターナー展の内覧会が開催されていて、それにも参加した。もうあれから5年近く経つのか。恐ろしい!一巡したかのような感覚だ。

 

自分にとっても、ターナーの絵は割と見る機会に恵まれていたので、ターナーについては知ってるつもりになっていた。

が、決してそうではなかった!

 

本展の特徴は、エディンバラスコットランド国立美術館群等、英国各地と日本国内で所蔵するターナー作品が、出品されている事だ。

今回英国からやって来た作品の殆どは、日本初公開なのだ。

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エディンバラ市街地の風景画について語る、スコットランド国立美術館群、総館長のジョン・レイトン卿。

今回は水彩と版画による風景画が、出品作の大半を占める。


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 『スノードン山 残照』について熱く語っているところ。

この作品はイングランド人のターナーが、ウェールズに行ってスノードン山を描き、それが今では何故かスコットランド国立美術館に所蔵されている。なんて事を言ってましたが、とにかくこれは、夕暮れ時に一瞬見られる光を捉えた素晴らしい作品。

ターナーはこの光を表現する為に、親指の爪で画面を削って、ハイライトをつけていたのだ。その手法は、スクレイピングアウトと呼ばれている。

ターナーはこの技法を駆使する為に、親指の爪をいつも伸ばしていたという。

今回の展覧会では、キャプションに細かく技法も書いてあるので、そこも注目してみて下さい。

クラッチングアウト、ストッピングアウト、ウォッシュ(にじみ)etc…。これらの技法は、いずれも光を表現する為に駆使していたのだ。

英国の天候は移ろいやすい。水彩絵具はその繊細な光の表現に適した画材だったのだ。

 

1901年に、個人蔵だったターナー・コレクションが、スコットランド国立美術館に寄贈されたのだが、その時寄贈主が条件にしたのは、これらの水彩画は1月のみの展示に限るという事だった。何故かというと、その月が1年のうちで最も日照時間が短くて、絵具の退色が免れるから。

美術館はその忠告を忠実に守り、毎年1月にのみ、ターナーの水彩画を展示しているそうだ。

 

展覧会は以下の4章で構成されている。

  1. 地誌的風景画
  2. 海景 -海洋国家に生きて-
  3. イタリア -古代への憧れ-
  4. 山岳 -あらたなる景観美をさがして-

 

ターナーというと、モネを始め、後の印象派に影響を与えたとか、20世紀抽象画の巨匠、マーク・ロスコも彼に大きな影響を受けたとか、絵画表現の先駆者としての側面が強調されがちなんだけど、今回の出品作を見ると、彼は実際現地に赴き、風景を正確に記録する事が、自分の使命だと思ってたんじゃないかな。

まあ、実際ターナーは、かなりの変人だったようだけど。

 

産業革命によって交通網が張り巡らされ、あらゆる場所に移動する事が可能になり、各地の風景を記録するニーズが高まってきた。

ターナーは写真を撮る様に、これらの風景をスケッチしていった。

そして、版画という複製技術を積極的に取り入れ、自身の作品を広く普及させたのだ。


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『ピクチャレスク―イングランド南海岸の描写』

これはターナーが彫版師に細かく指示を出し、納得行くまで何度も刷り直しさせたという。

妥協の無さが、見て取れる。


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この辺のエッチングを見ていると、一瞬19世紀の風景写真に見えて来る。

写真技術を開発した人は、ターナーみたいな風景画を描く事は到底無理だから、躍起になって、彼の生きているうちに、実用化させたんじゃないかな。


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会場の落ち着いた雰囲気もたまらなく良いです。

秀作揃いなので、是非見に行って下さい。お勧めします。

 

展覧会概要