あこがれの明清絵画 ~ 日本が愛した中国絵画の名品たち ~
先日、静嘉堂文庫美術館で開催中の、『あこがれの明清絵画』展のブロガー内覧会に参加してきました。
このタイトルを見て思い出したのは、2013年に板橋区立美術館で開催された『我ら明清親衛隊』展だった。
これは明清絵画と、明清絵画を模倣した江戸時代の絵師だけでなく、武士や、どこの流派にも属さない、所謂文人達が描いた作品もピックアップし、そちらを中心に紹介するという、非常にユニークな展覧会だった。
と、書いておきながら正直に告白すると、今回の『あこがれの明清絵画』展の告知を目にするまで、板橋の展覧会を見に行っていた事自体をすっかり忘れていた。
静嘉堂文庫美術館が、当館コレクションの明清絵画展を開催するのは、実に12年ぶりとの事。
そう、今回は江戸時代の日本人がお手本にした、元ネタの方を中心に見られるという、またとないチャンスなのだ!
※画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
あっさりとこってり?
本展覧会の特徴は、明清絵画のオリジナルと、それを模倣した作品とが並べて展示されているという事だ。
左が張翬(ちょうき)の『山水図』。右が狩野探幽の『山水図摸本』。
ほぼ同寸で模写されているというのは、かなり珍しい事のようだ。
こうやって並べられると、間違い探しがしたくなるw
ていうか、明らかにタッチが違う。オリジナルはごつくて、探幽のはやわらかい。
美術館館長の河野元昭さんは、「益荒男、手弱女」と表現していましたが、正にそんな感じ。
↓と思ったら日中の違いをこんな表現で!
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出汁ベースと油ベースね。やられた!
手前が明時代の『花鳥図』。
現在サントリー美術館で開催中の狩野元信展でも、これと同類の作品を見る事が出来るそうだ。狩野派にも大きな影響を与えた作品。
奥は沈南蘋の『老圃秋容図』。ここに描かれている猫が、今回の展覧会のイメージキャラ。
沈南蘋は、入国制限の最中にあった江戸時代に、日本に招かれた数少ない絵師で、その画風は日本の絵師達に多大な影響を与えた。
現在、日本に残されている沈南蘋の作品の殆どは、彼が来日してから描いたものなのだが、この猫の絵は、来日前に描いたというのがハッキリしているという。いわばレアもの。
この作品は沈南蘋の代表作として、江戸の世でも広く知られていた。
会場には、新たに発見された、谷文晁一門が描いたという粉本(下絵・手本類)も展示されている。つまり、この猫絵を模写した手本物なのだ。これは残念ながら撮影禁止。
谷文晁直筆ではなさそうなのだが、当時からこの絵柄は、南蘋型の典型として認知されていたという、貴重な証拠品であると言える。この粉本は本邦初公開!
左が谷文晁による模本で、右が藍瑛によるオリジナルの『秋景山水図』。こうして並べて展示されるのは初めて。
谷文晁の方が、下を省略している分短い。
これもタッチの違いが鮮明!
『虎図』。これは本邦初公開。
経年劣化のせいで不鮮明なのだが、虎の毛並が凄く細かく描かれている。一方方向ではなく、クロスされている。クロスハッチング?若冲を思わせる。
今回、チラシに若冲の名前を出しているにも関わらず、若冲が直接模写した作品というのは出品されていない。しかし、会場の入口付近に掲げられたパネルに、『若冲の明清絵画学習』というタイトルで、若冲の学習っぷりが解説されているので、展覧会に行く人は、ここも忘れずにチェックしましょう。
実は、静嘉堂文庫が所蔵する、若冲が模写した元ネタは、宗時代に描かれたものだったので、今回の展示は叶わなかったというオチがつきます。
美しき粉本の数々。
従来は、こうしたお手本を元に、江戸の文人達は、明清風の絵を描いていたのだと思われていた。
しかし、彼等はオリジナルをガンガン模写して、世に明清絵画を広めて行ったのだ。
この展示品達は、複製の歴史を雄弁に語っているとも言えるのか。
絵画というものは基本的にオープンソースだし、真似される事で価値が増す。
未見だけど、現在開催中の『北斎とジャポニスム』展も、きっと同じような視点で楽しめるのかもな。
静嘉堂文庫ならではの、由緒正しき作品が勢揃いしています。作品付属の箱書や跋(見た人物や所有者の感想が記されている紙。)も展示されていて、見ていると、そんじょそこらのオークションで入手したんじゃないぞ!と、威嚇されている気分にもなりますが、面白い展覧会なので、是非足を運んでみて下さい。
概要
会期:2017年10月28日(土)~12月17日(日)
休館日:月曜日
開館時間:午前10時~午後4時30分(入場は午後4時まで)
入館料:一般1,000円、大高生700円、中学生以下無料※団体割引は20名以上
※リピーター割引:会期中に本展示の入館券をご提示いただけますと、2回目以降は200円引きとなります。
【特別協力】公益財団法人泉屋博古館
※なお本展は、3日から泉屋博古館分館で開催される『典雅と奇想』展との連携企画です。併せての観覧がお勧め。