この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

挿絵本の楽しみ ~響き合う文字と絵の世界~

静嘉堂文庫美術館

先日、静嘉堂文庫美術館で開催中の『挿絵本の楽しみ ~響き合う文字と絵の世界~』展の、トークショー&ブロガー内覧会に参加して来ました。

 

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静嘉堂文庫と言えば曜変天目!

 

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でも今回の企画展は、コレクションの主である書物がテーマ。

 

“挿絵本”と言うと、物語に添えられた挿絵をイメージするのだけど、この展覧会では、中国の南宋・明・清時代と、日本の室町・江戸時代に作られた解説書や、記録書に描かれた挿絵の類にまでターゲットを広げて展示紹介している。

マニュアル本みたいなものも並列に展示する展覧会って、今まであんまり無かったんじゃないかな。ここにすごく興味をそそられた。

 

 

 内覧会では先ず、この4人のゲストによるトークショウを観覧。

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左から右に、ナビゲーターの青い日記帳Takさん、静嘉堂文庫美術館館長、河野元昭さん、永青文庫副館長、橋本麻里さん、静嘉堂文庫司書、成澤麻子さん。

 

実は中国の挿絵本の歴史は意外に浅くて、12世紀の南宋時代までの書物には、挿絵が存在しなかったのだそうだ。中国は文字が絶対的な力を持っていて、絵は、ヒエラルキー的には文字よりも下に見られていた。

ああ、それでこの前『江戸と北京展』で見た、経文を全て刺繍した書物なんていうとんでもないものを、かの国は作ってたりしたのか。*1

中国で書物に図像が使われるようになった大きな理由は、科挙の受験参考書を作るにあたって、図像の必要性が切実になったからなのだ。

 

この展覧会で展示されている挿絵本のジャンルは、以下の5つに分けられている。

  1. 神仏をめぐる挿絵
  2. 辞書・参考書をめぐる挿絵
  3. 解説する挿絵
  4. 記録する挿絵
  5. 物語る挿絵

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※画像は主催者の許可を得て撮影しました。

最初の神仏挿絵本コーナーに展示されている『妙法蓮華経変相図』の前でギャラリートークをする成澤さん。今回のこの企画を担当された方です。

この絵巻物は素朴美の系譜に加わってもおかしくない、可愛らしい菩薩像が描かれている。何と本邦初公開! 

目に見えない仏の世界を分かりやすく皆に伝えるには、やはり絵の力に頼らざるを得なかったのだ。昔は、音声だけではなかなか遠くまで伝わらなかっただろうし。

 

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これは辞書・参考書コーナーに展示されていた『永楽大典』。いわゆる百科事典。オリジナルではなくて写本。

それでも、火災等でその大部分は消失していて、現時点で地球上に残っているのは400冊程度。とても希少価値の高い書物なのだ。

 

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解説する挿絵のコーナーで目を惹いたのはやはりこの『機巧図彙』。いわゆるからくり人形等の仕組みと作り方が載っている。この通りに部品を揃えて作れば、ちゃんと動くらしい。

 

トークショウの時に成澤さんが、現在サントリー美術館で開催中の『絵巻マニア列伝』と、自分の企画した本展とを比べてみて、「(サントリー美術館さんに)やられた~!」と、悔しがっていたのが印象に残った。

確かに、絵巻にターゲットを絞り、美麗な手彩色の巻物を取り揃えた展覧会と比べると、こちらの挿絵本の方は手彩色絵巻あり単色刷り印刷本あり手描き本あり、永楽大典のようにオリジナルではない書物もあるから、美術的価値として見るとインパクトが薄いかもしれない。

誤解のないように言っておきますが、ここで紹介していないだけで、展覧会にはとても美しい図案や手彩色の挿絵本も紹介されています。

 

でもこの展覧会は美術ファンだけでなく、浮世絵好きにも博物学好きにも民俗学好きにも古本マニアにも訴えかけられる、ボーダレスな魅力に満ち溢れていると思う。漂流記もあったから、旅マニアも必見って事で。

ていうか、展覧会を企画する人ってもっと超然とした態度で自ら発案した企画について語るのかと思っていたのに、結構ライバル企画(?)を見てうろたえるもんなんだ。美術館内部の方の本音が聞けたように感じて、親近感が沸いたりしました。

 

西洋の挿絵本の歴史は研究が進んでいるが、東洋の、特に中国の挿絵本については研究本すら無いそうだ。この展覧会で分類されたジャンルが、この先雛壇として活用される事になるかもしれない。そんな事を考えながら鑑賞していました。

 

5月28日(日)まで開催中。お勧めします。

*1:これは『地藏経本』というもので、経文だけでなく図像も刺繡で表しているようだ。乾隆年間のもの。図像のページも見たかったな。