この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

5/10(sun) And Also The Trees @Shinjuku MARZ

 

 

結成37年目にして初来日。って、長すぎ!

 

And Also The Trees(以下AATTと略)の音をカテゴライズする時に出て来るキーワードは、「ゴス」「ポジパン」「ネオサイケ」辺りなのだが、ニューウェーヴ全盛期であった80年代前半〜後半をリアルタイムで過ごしたわたしは当時、この手の音を敬遠していたので、AATTの曲を残念ながらちゃんと聴いて来なかった。

しかし2010年代に入り、突如彼等の最新ライヴ映像をYouTubeで見る機会が訪れる。フランスの音楽系ブログにリンクされていたのだ。おおお〜っ!ずっと活動していたのか!と、衝撃が走った。しかも、いぶし銀のような輝きを放っている!

これは、もし来日したら見に行くべきなんだろうなと思わせるのに充分な内容だった。

という訳で、わたしにとってこのライヴは、懐メロで後向きに楽しむという意味合いで挑んではいなかった。つもり。

だが、当日、会場入りして入口でチケットを係員に渡していた時、わたしの背後を背の高い白人男性がスッと通り過ぎていった。その佇まいから、彼は絶対バンドのメンバーだ!と確信した。何故なら、彼はこんな暖かい気候なのに、決して薄手ではないロングコートを羽織っていたから!

この姿を見て、遥か彼方に追いやっていた80年代の雰囲気が頭の中にワーッと蘇った。そうだ、当時はニューウェーヴを聴く多くの人が、こんなロングコートを身につけていたのだ。勿論ミュージシャン自身も。

今では廃れてしまったこのスタイルを、彼はずっとずっと続けているのかと思ったら、頭がズガーンと来た。

いや、何かもう、その後ろ姿が凄くカッコ良かったんだわ。背筋がピッとしていて。この適度な浮世離れ振りが堪らなかった。

しかしこの時点でまだ、この人がヴォーカルの人である事すら知らなかったというぐらい、AATTについては無知だった。

ライヴが始まると、このクラシカルなロングコートが醸し出す何とも陰鬱なムードにやられる。コートの中は襟付きのヴェストを着て、更に鎖まで付いている。懐中時計でも忍ばせているのだろうか?

AATTのメロディは案外キャッチーなのだ。リズム隊がしっかりしているから、臨場感溢れて凄くカッコ良い。しかし、この音域の狭いヴォーカルで唸られると、疾走中の足をすくい取られる様につんのめってしまう。

そして、彼はその音域の狭さを補うかのように、大仰な身振り手振りをこれでもかと振りかざす。

そのポーズは所謂ナルシスティックなヴォーカリストにありがちな型にはまっているんだけど、音楽性はさておき、例えばニック・ケイヴとか、シスターズオブマーシーのアンドリュー・エルドリッチとか、イアン・マッカロックとかジュリアン・コープみたく、どこか自分の素顔からは一線を引いたキャラ作りに徹して歌っているのとは違っていた。

多分彼は、或るキャラを演じるという行為が出来なかったのだろう。だから今までクリーンなヒット曲とは無縁だった。

でも、そのお陰なのかどうかは分からないが、バンドの佇まいは若い頃のイメージを崩していない。ていうか、昔よりも格好良いと思う。確かに体型は中年化しているが、それを魅力に変えている。

ずっとブレずに続ける事の意義を、彼等は身を以て示していた。

仄かな暗闇の中で奏でられるのに相応しい音楽。この前見に行った『夜の画家たち』展を思い起こさせるような闇の魅力を堪能したライヴだった。いいタイミングだったわ。