この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

渋谷ユートピア 1900-1945 とか

@渋谷区立松濤美術館
松濤美術館が開館して30年ということで、かつて渋谷に住んだ芸術家達の作品や、渋谷を描いた風景画等を集めた展覧会が開かれている。(29日まで)


展示されている作品の中には、過去に同会場で行われた企画展を思い出させるものが多く、自分が以前ここで見た展覧会を思い出してみたりとか、またはうっかり見逃してしまった展覧会を追体験できたようで嬉しくなったりと、他の展覧会とはちょっと違った味わいがありました。


ちなみに、思い出した方の展覧会の筆頭格は、富永太郎展と村山槐多展。見逃して悔しい思いをした方のは大正イマジュリィの世界展と河野通勢展です。


富永太郎の作品が一番展示替えが多かったようだ。前期後期どころじゃなく、中期まであった。ちょっとびっくり。
富永太郎松濤美術館のすぐ近くに住んでいて、その地で短い生涯を終えたようです。
そんな縁の深い場所なのですが、ここでこの人の作品を見るチャンスはなかなか巡ってこないのでした。


今回はじめて見た辻永の絵には、恵比寿で飼われていた山羊が描かれていた。ううむ、今では想像もつかないような光景だ。
渋谷もやっぱり郊外だったのか。
もうすぐ世田谷文学館では「都市から郊外へ ― 1930年代の東京」という企画展が開催されるようだ。
池袋、渋谷ときて今度は世田谷と、示し合わせたように東京郊外をクローズアップした展示が続くのは何なんだ?


渋谷ユートピア展を見たついでに、渋谷区郷土博物館・文学館にも寄ってみました。
渋谷区の成り立ちがわかる展示になっています。しかし、さすが渋谷だけあって、他の地域の郷土資料館とは展示内容がひとあじ違いました。


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入口ではハチ公がお出迎え。(撮影可)
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背後にあったスクリーン。(こっちは撮影可だったんだろうか‥?)


ここの文学展示室には、渋谷に居を構えた文士達がどこに住んでいたか、地図上にあらわされています。
松濤美術館でも、芸術家達のコロニーが、同じように展示されていたっけ。
この2つを重ねあわせて見てみたかったなー。お互いのエリアが微妙にズレていたようなので。
池袋モンパルナス展では地図が販売されていました。ああいうのが渋谷にもあったら良かったのに。


芸術家もそうだったけど、文学者も、この館で紹介されていた人達の中に、ずっと渋谷で暮らした人は殆どいませんでした。
しかしその中で唯一、恵比寿生まれで生涯同じ場所に住み続けたのが奥野健男(1926-1997)。
展示室の片隅には奥野氏の残した書斎が再現されていました。
最近ふとしたきっかけで奥野氏の著作を読みだしたので、実はここがいちばん見たかった。
蔵書のセレクトがとても興味深かったです。


この文学館で最も展示スペースを広くとっている人物が、作家ではなくて文芸評論家であるというのが面白い。
奥野健男は、文学者の出身地と作品との関係を分析した著作を数多く書いたけれども、その中で、自身のような山の手育ちにも、山の手文化と言ってもいい知識階級の中で育まれた独特の世界があると指摘していた。
今回の渋谷ユートピア展も、自然風景と近代化された世界とがない混ぜとなって生み出された、この土地ならではの美の世界がくっきりと浮かび上がっていたように思う。