この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

@神奈川県立近代美術館 葉山
浜田知明の作品は、凄惨、且つ硬質で、でもどこか醒めていて、メルヘンチックで、ユーモラスですらある。自分がこの世界観に興味を抱いてから、もう随分と長い。
浜田氏は現在92歳。何と、セツ先生と同じ1917年の生まれである。それで今なお現役で、新作が発表されているというのは凄い。


この人の、モノクロームで構築された作品群を目の当たりにすると、ブツブツと色んな言葉や何かが頭の中で回り出す。自身の軍隊経験等、テーマがハッキリしている画風なので、作品の横には有り難くも丁寧な解説が添えられているのだが、そこはあんまり読まないようにしている。一つの作品を見る毎に、一つのストーリーらしきものを思い巡らす。展覧会場では人と殆ど交わらず、静寂の中で、作品とじっくり向き合いながら、頭の中では雄弁に対話していた。それは何と贅沢な時間だった事か。


登場人物等のかたちについては、今迄あんまりちゃんと見て来なかったのだが、今回、逆光でシルエット化された恐竜の彫刻の造形に、思わず見とれてしまった。自然光が降りそそぎ、背景となった窓に映し出されているのは大海原のみというロケーションだったのが、殊更良く見えた要因か。次回同館では古賀春江展が開催されるようで、これも是非見たいのだが、作品保護が優先されるだろうから、こんな明るい部屋で展示される事はないだろう。


彫刻は、自身の銅版画に登場するキャラクターをブロンズで立体化した作品が多い。作品自体が小さいので、フィギュアみたく見えなくもない。作品の性質上、ひんやりとして無機的な色彩を放つブロンズがよくマッチしているのだが、ソフビみたいな素材で、関節がぐにぐに曲がる人形に仕立ててみても面白かったりして。ていうか、そういうのを見てみたい。


地下の図書室には浜田氏の特設コーナーが出来ていて、過去の展覧会カタログや、ゴヤ、ボス、ドーミエ等、浜田氏が影響を受けた画家達の画集が置かれていた。これは良かったなー。もっと時間をかけてゆっくりと見たかった。あと、近年全国各地で開催された展覧会のカタログが、地域毎に分類されていて、これは今度再訪した時にじっくりチェックしたいと思った。


移動手段が電車+バスの者にとっては、なかなかハードな場所にある美術館だけど、今回初めて訪れて、それなりに収穫があったので、行った甲斐がありました。