この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

時の宙づり - 生と死のあわいで

@IZU PHOTO MUSEUM
最初、割引券に使われているレースの白ドレス姿の女性の写真を見た時、尋常ではない雰囲気を感じ取り、凄く気になったんだけど、場所の遠さがネックとなり、行く気が萎えていたところ、ふと本屋さんでこの展覧会のカタログを見付けて、手に取ったら急に「やっぱり行こう!」と思い立ち、次の日には会場に足を運んでいました。


この展覧会は、写真史家のジェフリー・バッチェン氏自身の写真コレクションを中心に、19世紀の額入りダゲレオタイプ(銀板写真)や写真ジュエリー等を展示する。というもの。
それらは殆ど無名の写真家や職人が手掛けた作品で、いわゆるアート作品と区別する為に、"ヴァナキュラー(ある土地に固有の)写真"と呼ばれているのだそうだ。今回、この展覧会を通じて初めてこの言葉を知った。


展示されている作品は、骨董品屋さん、古道具屋さん、古本屋さん等でホコリを被り、ひたすら脚光を浴びるのを今か今かと待ち望んでいたように見受けられた。何だか魅惑的で饒舌なのだ。
ここにあるのは「写真」であるというのが唯一の共通キーワードで、形態は絵画であったり、立体であったり、手芸であったり、葬儀リースであったり、工芸であったり、ジュエリーであったりと、実に間口が広くて曖昧模糊としている。しかし、「ヴァナキュラー写真」というカテゴリーを作った途端、魔法のように作品達が結びついていく。まるで絵画における「アウトサイダー・アート」のカテゴリーみたいに。


こういう、新たな視点を得た事、ジェフリー・バッチェンという人物を知った事に関しては、とても有意義だった。
しかし、何故か見ている間じゅう、「もし現在もサム・ワグスタッフが存命していてまだ写真コレクションを続けていて、彼自身のセレクトでコレクションを公開するという企画があるとしたら、どんな展覧会になるんだろう?」という事をつらつらと考えてしまっていたのだった。そんな事を想像してもしょうがないのだが…。


そうそう、「人影」写真の束は圧巻!だった。これは面白かったです。

IZU PHOTO MUSEUMは2009年10月に開館したばかりの新しい美術館。
なのに、なのに…、
館内にお客様用のトイレがない!!


あと、この企画展はカタログのみの販売で、ポストカードの類は一切なし。
ちょっとは期待したんだけどなー…。
それから、折角ジェフリー・バッチェン氏の講演会を開いたんだから、その時の映像を少しでいいから見せればいいのにと、帰って来てから思った。


それと、会場に着いてはじめて、隣のヴァンジ彫刻庭園美術館で5月21日から古屋誠一展が開催される事を知った。何だ、こっちの展覧会に合わせて来れば良かったと、ガックリと肩を落とす。
でも気を取り直して、ここで現在開催中の「アイラン・カン‐内なる本棚」は、本関連の作品だし、結構面白いんじゃないかと期待して入ったのだが、会場内が明るすぎて、全く光る本の魅力が生かされていなかった。チラシの写真とえらく違うじゃないか!


他に、レストランに関しても、他の施設に関しても、何とも言えぬゆるさを感じずにはいられなかったんだけど、この辺で止めておきます。
と、リゾート地にある美術館に不慣れだったわたしは、こういうリゾート地特有ではないかと思われるサービス等に、思いっ切り洗礼を受けて帰って来たのであった。まあ、これで免疫はついたし、次回行く時はもう大丈夫だと思う。ていうか本当はもうちょっと改善して欲しい。