この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

『[http://www.mapplethorpe-movie.jp/:title=メイプルソープとコレクター]』

邦題では知名度のあるメイプルソープの名前しか冠せられていないのだが、原題は『Black White+Gray A Portrait Of Sam Wagstaff + Robert Mapplethorpe』で、あくまでもメイプルソープのパートナーであった、サム・ワグスタッフが主役のドキュメンタリー映画である。

昔、メイプルソープの存在に興味を持ち、ちょっと記事等を調べ始めたらすぐにワグスタッフの名前に行き着いたので、名前と顔立ちには馴染みがあった。
彼の事でちょっと目を惹いたのは、晩年の顔つきと、70年代の、写真コレクターとしては絶頂期にあった頃の顔つきとのギャップの大きさか。それはAIDSに侵されていたから、というのは容易に想像がついたのだが、単純にそれだけで片付けられない違和感のようなものを感じていた。が、関心はそこまでで、この映画を作った監督のように深く追求してみようなんて気はさらさらなかった。

80年代前半頃、妙にモノクロ写真に惹かれる時期があった。それは今でもずっと引きずっているのだが。あの頃は古い写真も、UK、US辺りのバンドのモノクロによるプロモーション写真も、いわゆる芸術写真も、モノクロ印刷のインディーズバンド等のレコジャケも、全て同列に見ていた。

もしかしたらこの感覚は彼が蒔いていた種だったのかもしれない。
メイプルソープパティ・スミスはよく、サムが買い物袋いっぱいに買い込んで来た写真を片っ端から眺めていたという。
あの頃、憧れのまなざしで自分が見つめていた彼らのポートレイトで、彼らがこちらに向けていたまなざしの奥には、もう既に数え切れぬ程の写真作品が焼きついていたという事になる。

今回、サムがコレクションしていた、今見ても異端だと思える写真を何枚か見る事が出来た。
思わず、コレクションをそっくり引き取ったThe J. Paul Getty Museumに行ってみたくなった。
いや、全部一気に見たら頭パンクしそうだから、『サム・ワグスタッフ展』と銘打って、上手くキッチリまとめた展覧会を誰か企画して欲しい。この映画はそういう壮大な企画を打ち立ててくれる共犯者を募るために作られたような気がする。