この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

―「鋸鹿」発見100年― 磁州窯と宋のやきもの 展

f:id:almondeyed:20200119140402j:image

静嘉堂文庫美術館では18日から、『―「鋸鹿(きょろく)」発見100年― 磁州窯(じしゅうよう)と宋のやきもの』展が始まりました。

中国宋代(960~1279)に作られた陶磁器を「宋磁」と言いますが、その中でも名品と讃えられているのが、カギカッコで強調されている「鋸鹿」という場所にある、磁州窯で焼かれた陶器なのです。

正直、この展覧会を見るまで「鋸鹿」という地名も知らなかったし、「磁州窯」という名称も馴染みがありませんでした。

 

中国の窯といえば「景徳鎮窯」が有名ですが、景徳鎮が「官窯」と呼ばれる宮廷が築いた窯であるのに対して、今回の磁州窯は「民窯」と言われる、民間人が築いた窯であるという所に違いがあります。

 

残念ながら、北宋時代に大河の氾濫で、鋸鹿という町自体が消滅してしまいました。

それから900年近く後の1920年前後に同地で遺跡が発見され、そこからほぼ完璧な姿の磁州窯陶器や建築址などが出土したのです。そのため、鋸鹿は「東洋のポンペイ」と呼ばれるようになりました。

1920年代の日本はちょうど大正~昭和時代。発掘された磁州窯の名品はすぐさま当時の日本にも伝わり、一気に磁州窯蒐集熱が高まりました。

2020年は鋸鹿遺跡発見から100年にあたります。本展覧会はこれを記念して企画されました。

 

※画像は美術館より特別に許可を得て撮影したものです。通常は撮影禁止です。

 

f:id:almondeyed:20200118173435j:plain

f:id:almondeyed:20200118173453j:plain

展示室に入るとすぐ、チラシにも使用されているモノトーンの陶器2作品が展示されています。

上の奇妙な形をした牡丹柄の陶器は如意頭と呼ばれ、用途は何と枕。

絵柄は白地に黒で筆描したものではなく、白化粧と呼ばれる白地を覆うように鉄絵具を塗った後、文様と背景を掻き落とし、白地を出すという、手の込んだ技法で描かれています。これが宋時代の他の窯には見られない、最大の特徴なのです。

そして、上の作品と対をなす、黒釉で覆った表面に線彫りや掻き落としをした、このような全体的に黒々とした作品も作っていました。

 

チラシには『白黒つけるぜ!』なんていう、静嘉堂らしからぬ挑発的なキャッチコピーが踊っていますが、これは今回の展覧会に携わった山田学芸員が考えたものだそうです。

 

f:id:almondeyed:20200118182904j:plain

そう。展示作品は確かに白黒ものが多いです。

しかしやたら目につくのは左に見える枕。

 

f:id:almondeyed:20200118183032j:plain

枕。

f:id:almondeyed:20200118182944j:plain

これも枕。

f:id:almondeyed:20200118183008j:plain

これも。って、よくこんなに枕を集めたものです。他にもまだ幾つか展示してあります。

まさか岩崎家の方々は、毎晩とっかえひっかえ陶器の枕で寝てたりしたんでしょうか?

こちらの赤っぽい枕は汚れているように見えますが、長年泥の中で眠っていたものなので、土中の色素が染み込んで、それが景色になっているのだそうです。

こういうお話を聞くと、陶器の世界も奥深いなぁと思わずにはいられません。

 

このように、磁州窯の焼きものは白黒だけではなく、結構多種多様な色が使われています。

f:id:almondeyed:20200118183303j:plain

こちらはターコイズブルーの壺で、左側は翡翠釉が殆ど剥落しています。

しかし剥落したおかげで、龍凰文や菊唐草模様がくっきりと浮き出ています。

この壺は彫刻家の新海竹太郎(1868~1927)の所蔵品だそうです。

磁州窯の焼きものは、当時の芸術家達がこぞって手に入れていたのです。

 

f:id:almondeyed:20200118181840j:plain

今回は油滴天目の焼きものも多数展示されています。

これは茶碗というよりも鉢です。果たしてこれで実際にお茶を飲んだのでしょうか?

 

f:id:almondeyed:20200118182625j:plain

静嘉堂文庫の至宝である、曜変天目茶碗も見られます!

 

f:id:almondeyed:20200118183541j:plain

ロビーでも、白黒対決しています。

これは茶葉入れだったかな?河野館長はこれの蓋を取ってぐい呑みにしたいと仰ってましたが。

そうそう、本展の展示品の中には、以前酒器の展覧会に出品されていたものが幾つかありました。決して枕だらけの展覧会ではないですw

 

という感じで、途中かなり端折って紹介しましたが、磁州窯は10世紀以降現在に至るまで、日用の器物を大量に生産し続けています。その多種多様で装飾性豊かな陶器は、地域を越えて受け入れられました。

生産コストも抑えられ、比較的容易に習得しやすい技法であるというのも、普及の後押しになりました。

 

磁州窯の焼きものは、庶民の為に作られたものだというお話を伺っているうちに、柳宗悦の提唱した民藝の中にこれは入っていたのだろうか?と思いはじめたので、思い切って近くにいた河野館長さんに質問してみました。

そうしたら、柳宗悦が集めていたのは雑器の方で、技術的にも進化しないもの。決まったパターンの繰り返し。そもそも宋時代よりも新しい時代のものを集めていた。今回の鋸鹿で発掘された焼きものは、新しい物でも500年前。柳さんは明清時代以降のもの。だから全然違うと仰ってました。

 

もしかすると、静嘉堂文庫と日本民藝館との、骨董に関する価値観の違い、それはお互いに不可侵であるというのが、ルールとしてあるのかな?なんて事を、この答えを聞きながら想像してみたりもしたのですが…。

でも、日本民藝館にも磁州窯のコレクションはあるみたいですよ。磁州窯系なのかもしれませんが。

それにしても流石は別名饒舌館長。喋りだしたら止まらない止まらないw。こちらはついて行くのがやっと。いやぁ、強烈な体験でした!でもお話を伺って、ますます焼きものに対する興味が湧いてきましたよ。

 

開催概要
  • 会期:2020年1月18日(土)~3月15日(火)
  • 休館日:毎週月曜日(ただし2月24日は開館)、2月25日(火)
  • 開館時間:午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
  • 入館料:一般1000円、大学生・高校生および障害者手帳をお持ちの方(同伴者1名含む)700円、中学生以下無料 ※20名様以上の団体は200円割引
  • 会場ウェブサイト:静嘉堂文庫美術館