この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展 (その1)

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三菱一号館美術館では現在、マリアノ・フォルチュニ展が開催されています。

 

最初にこの展覧会のチラシを見た時、この人はただのファッション・デザイナーじゃないんだろうなきっと…。という雰囲気を漂わせていて、とても興味をそそられました。

ファッションも絵画も写真も手がけたマルチな人?

というイメージだったのですが、実際作品に接してみたら、自分の想像を遥かに超えた創作活動を行っていた事が分かり、ビックリ!

 

マリアノ・フォルチュニは1871年、スペインのグラナダで生まれました。

父は19世紀スペインを代表する画家で、2015年に同館で開催された『プラド美術館』展に、作品が出品されていたそうです。

今回も、最初の展示室で父フォルチュニの作品が何点か見られます。

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これは父の作品をフォルチュニが模写したもの。画像は公式サイトのフォトギャラリーから。

父は彼が3歳の時に、36歳の若さで急死。

その後、母、姉と共にヴェネツィアへ移住します。

 

子供の頃から絵の才能を発揮していたフォルチュニ。

この展示室にはエッチング作品もあったりして、最初から彼のマルチぶりが伺える構成になっています。

 

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次に目を惹いたのが、ルーベンスやティントレット等、偉大な先人達が描いた名画の模写。

これを見て、フォルチュニの根底に存在しているのは、18世紀以前の美の世界なのだなと確信しました。

 

フォルチュニが己の進むべき道を見つけたのは、ドイツのバイロイトワーグナーのオペラに触れた時だったといわれています。

総合芸術といわれるオペラの世界で彼は先ず、舞台装置や照明デザインを手がけました。

 

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『クーポラ・フォルチュニ』。何やら前衛的な構造物…。

 

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これは彼が手がけた舞台の間接照明を再現したもの。

このように、幻想的に照らされる舞台装置は、フォルチュニによって考案されました。

思いついたアイデアを実現させる能力が並外れ!

 

そして、彼は次第に衣装の方へと関心が移っていきます。


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デルフォスの黒。公式サイトのフォトギャラリーより。

 

フォルチュニが生み出した最大の芸術品は、『デルフォス』という、非常に繊細な絹のプリーツドレス。絹は日本からの輸入品だそうです。

 

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これは古代ギリシャ彫刻『デルフォイの御者』から着想を得たものでした。

 

19世紀末〜20世紀初頭は、それまで女性の身体を縛り付けていたコルセットから開放されるという、身体的革命がもたらされた時期でもありました。

ポール・ポワレがその先鞭をつけたのですが、ポワレの服は裾が窄まっていて、非活動的でした。

フォルチュニのデルフォスは、プリーツなので身動きが楽。

しかも素材が軽くて柔らかいので、持ち運びが非常に便利。

まさしく、現代的な衣装なのです。

しかし、この独特なプリーツ加工技術は極秘だった為、フォルチュニが没した事により技術は途絶え、現在は再現不可能。(曜変天目か!)

似たプリーツは再現出来ても、あの独特な光沢や柔らかさは出ないそうです。

 

機能的とは言っても、デルフォスをクリーニングするには、フォルチュニのブティックに委託しなければならなかったそうです。

そうしないと、プリーツが崩れて台無しになるのです。

今残っているオリジナルのデルフォスは、技術開発でもしない限り、永遠に汚れが落とせないという…。従って、おいそれとは着られないという…。

そんな悩ましいドレスが、一堂に会しているのが、本展覧会の魅力です。って、見どころはそこじゃないんですが…。

 

一旦ここまで。まだ続きます。

 

※画像は一部、公式サイトのフォトギャラリーから拝借致しました。

展示室内の画像は、関係者の方から特別な許可を頂いて撮影したものです。

 

開催概要