この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

 生誕140年記念特別展 「木島櫻谷」

東京(六本木)|住友コレクション 泉屋博古館

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去年、京都の泉屋博古館で行われた木島櫻谷展が、東京に巡回してきました。

 

一般公開に先駆けて行われた、ブロガー内覧会に参加出来るチャンスを得たのですが、この日は美術館に到着するのがちょっと遅れてしまったので、ギャラリートークを途中から聞く事になってしまった。

というわけで、今回は主に、自分の見た印象を書く事にします。

 

※画像は美術館から特別の許可を得て撮影したものです。

 

木島櫻谷(このしま おうこく 1877-1938)は、明治から昭和にかけて活躍した、京都の日本画家で、動物画を得意としていた。

明治後期に始まった文展では、出品作が毎回受賞を果たすという、スター級の活躍だったが、近年はずっと忘れられた存在になっていた。

が、ここに来て、再評価の機運が高まっている。日曜美術館でも去年特集されたしね。

 

本展は櫻谷の動物画が中心に見られる好企画。更に、近年発見された未公開作品等を交え、その多彩な魅力と表現の変遷が辿れる内容になっています。

 

 夏目漱石がダメ出しした『寒月』

木島櫻谷の作品で最も物議を醸したのが、彼の代表作である『寒月』。


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これは以前、『夏目漱石の美術世界』展でも出品されていて、展覧会も見に行ったけど、前期展示のみ見たので、後期に展示されていたこの作品は見れなかった。なので、本物を見るのは今回が初めて。

この作品が見れるのを、とても楽しみにしていた。

 

夏目漱石はこの作品を、屏風にするより写真屋の背景にした方がいいとまで酷評した。

何故漱石がそこまで毛嫌いしたのか、実際に作品と向き合いながら考えたけど、自分の中での結論は出なかった。

一つ言えるのは、“漱石が嫌った絵”というレッテルが、この作品を特別なものにしている事。

そこまで漱石に言わせるパワーが、この屏風絵にはあった。

技法的な事では、恐らくメタリックに輝く空の色は、顔料を焼いてグラデーションを作ったのではと、学芸員さんは解説していたが、とにかく、この寒々とした光景は、ブリューゲルの絵を思い起こさせた。

 


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 高価な顔料は、鍵がかかるトランクで、大切に保管されていた。

総額お幾らぐらいなんだろう?と、下世話な事をうっかり考えてしまった。


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 この孔雀の羽は、まるで金糸を刺繍したみたいな輝きと盛り上がりを見せていた。群青の色彩が、うっとりするほどに美しい。櫻谷の尋常ならざる力量を伺わせる一品。


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展示室はまるで、ガラス越しに鑑賞する動物園のようだった。殊更立体的に描いているわけではないのに、圧倒的な存在感!それは、どの動物も思慮深い表情で描かれているからか。人間のような表情と言うべきか。いや、人間こそが動物に似ているのか。

 

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こういう卓越した描写力は、日頃のスケッチによって培われたものだ。


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会場には写生帖が何冊も展示されていて、非常に見応えがある。正直、彩色画よりもこっちを見ている方が面白かった。ちょっと劇画タッチ?


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 櫻谷は、動物をスケッチするため、毎日動物園に通い詰めていて、終いには動物園のフリーパスまで所持するようになった。

これは櫻谷の自宅から近年発見された、京都市立記念動物園の優待券。こんな昔からフリーパス制度があったのか!当時の資料としても貴重。

 


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日曜美術館でも紹介されていた『かりくら』も展示。これは明治43年文展に出品後、一度公開されたきり行方知れずだった、幻の名作。恐らく100年以上振りの一般公開。

この作品も、人物画でありながらも主役は馬。画面から飛び出して来そうな迫力!

人物の方は、昔の雑誌等に出て来る挿絵のような面持ちだなと思った。情緒に訴えかける、憂いを帯びた表情。

昔、自分が若かった頃、こういうウェットな表情を持つ人物画を見るのが苦手だった。今はそうでもないけど。櫻谷の作品の好みが分かれるのは、この辺なのかもしれない。

夏目漱石もきっと、櫻谷の絵が自身の感覚と合わなかったのだろう。その辺までは理解出来るんだけどね。

 

4月8日迄開催中。3月20日からは後期展示が始まります。

 

開催概要

会期:2018年02月24日 ~ 2018年04月08日

入場料:一般800円、学生600円、中学生以下無料

開館時間:10:00から17:00まで 月曜休館