この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

生誕120年 東郷青児展 抒情と美のひみつ

生誕120年東郷青児展 The 120th Anniversary of the Birth of Seiji Togo A Retrospective of Togo's Depiction of Women
f:id:almondeyed:20170922064622j:image

今年、生誕120年を迎えた東郷青児(1897-1978)の、画業を振り返る展覧会が現在、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催されている。

先日、プレス内覧会にブロガーとして特別招待されたので、その時の様子をレポートします。

 

※画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

 

東郷青児記念館で行なわれている展覧会なので、館の所蔵品だけで構成された内容を想像してしまったのだが、そうではなかった。

全国各地の美術館等から選りすぐったコレクションが、一堂に集結していた。

若い頃から晩年までの画風の変貌ぶりが、コンパクトにまとめられていて、流れに沿って見るだけで分かる仕組みになっているのが、とても有難かった。

特に今回は、館のコレクションでは手薄だったと学芸員の方が仰ってた、30〜40代にかけての壮年期に描かれた作品が充実している。

 

本展の特徴は、今迄美術作品として顧みられなかった、東郷の手がけた舞台装置や、本の装幀、雑誌の表紙画、デパート等の商業施設で手がけた大型作品など、デザイナーとしての東郷青児像にスポットライトを当てた事だ。

 見どころは、藤田嗣治とコラボした、京都丸物百貨店の食堂に飾られた壁画(実際は巨大なキャンバスに描かれた油彩画)。『海の幸』が藤田。『山の幸』が東郷。


f:id:almondeyed:20170922075530j:image

ギャラリートークでは、まだ藤田の著作権が残っているから、くれぐれも作品撮影はしないようにと念を押されたので、ここでは当時丸物百貨店が発行した絵葉書を載せておきます。

この作品に描かれた女性達は、西洋の民族衣装を身に着けているけど、持っている果物はリンゴやバナナだし、顔付きは無国籍だし、整合性がない。そんなのはどうだっていいぐらいの勢いで描いている。

これが描かれたのは1936年。まだ日本は豊かな時代だった。

 

 
f:id:almondeyed:20170923005831j:image


f:id:almondeyed:20170923011006j:image

ジャン・コクトー『怖るべき子供たち』の翻訳、挿絵、装幀も手がけていた。

 

 変化する女性像

 

東郷青児といえば、あの神秘的なムードの『美人画』が先ず思い浮かぶのだが、これも時代に応じて変貌を遂げていく。

特に気になったのは唇の描き方だ。

1930年代前半迄は、江戸の浮世絵の様なおちょぼ口だったのが、時代が下るに連れて肉厚の唇になっていく。

 


f:id:almondeyed:20170923104513j:image

展示室の奥へと進むに従って、どんどん描かれる女性の顔付きが変わって行くのが面白かった。


f:id:almondeyed:20170923105041j:image

こちらは戦後に描かれた美人画。

割と大きな作品なので、絵から受けるパワーが半端ないのだ。こんなにシックな色調なのに、岡本太郎の絵に匹敵する威力がある。

 

東郷青児って、大衆芸術の代名詞みたいに言われているけれど、それは見る者の目線に寄り添った、分かり易い、言ってしまえば工芸品の様な絵を描いていたからだと思う。

でも、実物と対面すると、凄いエネルギーを感じる絵なのだ。昭和の時代に見たら、このパワーを平気で受け止められた筈なのだが、今は見ているこちらが折れてしまいそうになる。


f:id:almondeyed:20170923112401j:image

タイル画まであるぞ。ビックリ!

 

シックなのに華やかで派手。そんな東郷青児の魅力がたっぷり詰まった展覧会になっています。

東郷青児なんて今更…と思っている人にこそお勧めしたいです。色んな意味で発見があります。

 

開催概要

会場:

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

会期:9月16日(土)〜11月12日(日)

開館時間:午前10時-午後6時(入館は午後5時30分まで)