幸田文展
幸田文(1904-1990)の、単独では初の回顧展。
平成2年に没した後、未発表の著作が続々発表されるようになると、ブームのような現象が巻き起こり、わたしもその時期は結構熱心に読んでいた。
娘の青木玉が書いた『小石川の家』は久世光彦がドラマ化していて、それも見たなぁ。あれ、久世光彦と森繁久弥が存命中の時に作られてホントに良かったと、今になってつくづく思う。
近年はこの方の著作からとんと遠ざかっていたのだが、この展覧会を観てから、再読しているところ。
会場には生原稿はもちろん、作家の身の回りを彩っていた着物や日用品の数々がずらっと並べられていた。
村松友視が幸田文の自宅を訪問した時に、手土産として渡すために作った、千代紙を貼り付けたマッチ箱とか。一見何でもないグッズに「うわ〜っ!」と舞い上がってしまった。
でも、マッチ箱マニアにとっては、千代紙の下に隠されてしまった図柄の方に興味が行ってしまうのではないかな、と、思ったりもして。
展示されている着物を見て、そうだ、幸田文の本を熱心に読んでいた時期は、「自分も着物を着るんだー!」と、意気込んでいたんだった。なのに、未だに実現していない!
決めた。来年こそ着物を着よう!
と、心の中で小さく宣言したのであった。
幸田文は昭和50年代に入ると、全国に散らばっている崖崩れや火山活動の現場を精力的に訪れ、そこで見聞きしたものが『崩れ』という本に纏められている。
もし、幸田文が現在の日本に存在していたら、震災の現場や土砂崩れ、竜巻被害の現場をどのような文学的表現で描いただろう?
この企画展のサブタイトルが「会ってみたかった」なのは、災害等をこのように表現する人物が、今はいないというメッセージにもなっているのかなと、ふと思った。
ずっと観たかった幸田文展へ、日曜日にようやっと行ってきた。幸田家一族について詳しく知るきっかけになったのは『東京人』の100号記念特集号。この本は今でもバイブル。 pic.twitter.com/LFSU29Xmdq
— nobuko (@almondeyed) 2013, 11月 18
これを読んで幸田家一族に関心が広がっていった。
幸田露伴の数多い兄弟の中で、特に関心を持ったのが、幸田文が親しみを込めて「紀尾井町の叔母」と呼んだ、露伴のすぐ下の妹である幸田延だった。
単に、自分と同じ漢字を持つ名前だったからというのもあるが、あの幸田露伴をして決して頭の上がらない人物だったっていうんだから凄い。妹なのに…。
幸田延は、日本でほぼ最初のピアニストであり、ヴァイオリニストであり、作曲家であり、音楽教育者である。西洋音楽を学ぶ為に海外留学をした最初の日本人でもある。
展覧会場には彼女の直筆である楽譜も展示されていた。
幸田延のことを知るにはこの本がお勧め。って、『幸田姉妹』の方はまだ読んでないんだけど…。
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コレクション展の方では『旅についての断章』という、作家と旅との関係をテーマにして、写真や旅行道具が展示されていた。
過去に同館で特別展が開催された作家さんが取り上げられていて、自分が見逃した展覧会をここで追体験出来たのが嬉しかった。ダイジェスト版みたいな雰囲気で。こういうのはいいなぁ。