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この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

小林猶治郎・富田有紀子展

@練馬区立美術館


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小林猶治郎(1897-1990)は生涯大きな画壇には所属せず、画塾を開いて子供達に教えたり、高校の美術教師をしながら生涯絵を描き続けていた人だった。
今回は小林猶治郎の孫で、同じく画家の道を歩む富田有紀子との、初の共同展覧会だそうです。
お二方共全く知らない画家だったのですが、チラシにも使われたこの絵に強く惹かれたので、見に行きました。


この絵は小林猶治郎の奥様をモデルにして描いたようなのですが、どうにもインド風エキゾティズムが漂っています。


わたしはこの絵を見た時、ふとこの方を思い浮かべました。

http://instagram.com/p/WMf9rIEPmY/
BLITZ誌より。ソロになった頃のBIDさん。


ちなみに奥様は写真で拝見する限り、白人ぽいモダンな美女でした。


わたしが行った日はちょうどギャラリートークが開催されていて、富田有紀子さんが来館していました。


ギャラリートークは、彼女自身が、特に印象深いという祖父の絵をピックアップして、その絵にまつわるエピソードを話すというスタイル。


以下の4点について解説してくれました。

  • 『漁樵問答』

残念ながら、この絵の解説は前半部分を聞き逃してしまいました。でも、お爺さんには人を喰ったような所があったとか、ユーモアのセンスがあったとか、そんなような事を言ってた気がする。
途中で小林猶治郎と関わりのあった方が会話に加わって下さって、この絵の男性は大きくて立派な、漁師の手をしていると指摘してくれました。

  • 『梅』

何でも、家の玄関に飾ってあった絵らしい。
小林猶治郎の画業を発見するきっかけとなったのがこの絵。
縦長で小ぶりのサイズだし、画題も梅だから掛軸風なんだけど、絵自体がものすごい密度で描かれていて、小さな絵だとは思えない異様な迫力を放っている。
この人の絵に入ってるサインはどれも達筆なんだけど、特にこれは凄い。
絵の中にもよく文字が書かれているのだが、これは家系によるものか。小林猶治郎の母方に漢学者がいたのか?(うろ覚え) あと確か先祖の誰かが俳句を嗜んでいたとか、そういう素養に恵まれていたようだ。


この話の流れで、この人は絵自体に文字を書いただけでなく、絵の裏側にもよく字を書いていたという事で、おもむろに学芸員の方が『つどい』という作品を壁から外して裏を見せるという思い切った行動に出る。そこには、

自然 浄土
童心 礼讃
美道 信心
作画 苦楽

の文字が、凄い達筆で書かれていた。
いやーまさかこんなものまで見れるとは思わなかった!

  • 『宿場(富士見)』

諏訪の片倉館という所に飾ってある絵らしい。
普段は天井の高い鴨居の所に掛けられているので、こんなに近い位置で見られる機会は滅多にないのだそう。
具体的にどの場所を描いたのか、現地調査して突き止めたらしい。JR富士見駅の近くだとか言っていた。
この人の作品の中で最も大きな絵なんだけど、こんな大きなキャンバスを背中に背負って、ちゃんと現場で写生して描いたらしい。その時の写真も残っている。

  • 『童心双六』

この絵のモデルは自身の息子と娘だそうです。
双六形式になっていて、周りの絵は子供の絵から拝借したらしい。
プロの画家はよく子供の絵を参考にしたりするけど、例えば松本竣介あたりなら、自身の画風にすり寄せて描いていたものだけど、この人の場合はそのまんま引用していた。「パクリか?」というツッコミが入ってました(笑)
娘の顔は特にグロテスクなんだけど、当のモデルになった本人は、この絵を見ても別に普通だと思ってたらしい。


ここからは富田有紀子さんの展示室に移動。
祖父と富田さんとの関わりについての話になりました。
祖父とは、子供の頃から画塾にはよく出入りしてたけど、師弟関係という意識は全くなかったとの事。
どちらかというと、“同志”のような関係だったみたいです。


展示室には、色鮮やかな花をクローズアップした絵が、間隔を詰めてビッシリと並べられていた。
普段小さな画廊で展示される場合は、一点一点を独立させて見せる形式だから、今回の展示はインスタレーションに近いものだとか。
とにかく色が鮮やかで春らしく、とても心地の良い空間に仕上がっていました。
祖父の絵とは全く違う印象なんだけど、空の色なんかは似てたかな。


あと、富田さんはシャイな方なのか、ギャラリートークの時は言葉少なげに語っていたのですが、よく見ると面白い形のフレームをした眼鏡をかけてたりして、茶目っ気たっぷりな方なのではとお見受けしました。その辺は祖父の血をかなり受け継いでいそうです。


展示室には、祖父が富田さんに宛てた手紙が展示されていましたが、それを読むといかに我が同志として彼女に熱いエールを送っていたかが分かり、なんだか目頭が熱くなったのでした。羨ましかったです。


画家達の人間性が見て取れる、とてもいい展覧会でした。この画家に光を当ててくれた方々に感謝します。