この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

麻生三郎展

@東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
麻生三郎(1913-2000)の、没後初となる本格的な回顧展。


去年見た「麻生三郎とそのコレクション」展で展示されていたコレクション作品のチョイスがとても良くて、印象に残っていました。(id:almondeyed:20090923)
しかし、その隠れ家的なスペースによるこじんまりとした展示を想定して見に行くと、痛い目に遭います。そりゃあ同じ近代美術館でも、鎌倉と東京では広さが段違いですから、受ける印象が違うのは当たり前なんですが。でも、それを差し引いても、見終わった直後の疲労感は相当なものでした。
戦前に描かれた初期の作品こそ小さなサイズのものが多いですが、戦後の作品は大きいサイズが中心で凄い迫力。
初期の作品は具象画と呼べる、いわば分かりやすいテーマのものを割と明るい色彩で描いているのに、時代が進むにつれて段々とほの暗い色調になり、描かれているものの形も解体されていく。
それが、廊下のようなスペースに、効果的に配置されていた。
そのスペースを抜けて、戦後作品の空間に突入すると、暗くてよく見えません、といった感じの世界になる。
照明は充分足りているのに。
でも、暗い画面の奥で鈍く輝く男の目はとても美しかった。


見ているうちにフト、この全体を覆っているボコボコの画面は、目を閉じて、瞼の上からグッと押さえつけた時に見える光景に似ているなと思い当たった。あれは日差しのある場所でやると、いかにも血が巡ってるような赤々とした世界になる。もしかしたら麻生三郎は、肉体の裏側を覗いた時に見える風景を丹念に描写していたのかもしれない。そういう風に解釈すると、終生、写実を追い求めていた人だったのかなと思ったりもした。