この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

帯広に行ってきた。
滞在期間が短かったので、観光地巡りは出来なかったのですが、この美術館にだけは運良く訪れる事が出来ました。


道産子を自称する者で、神田日勝(1937-1970)の絵を知らないと言う人がいたら、そいつはモグリだと断言してもいい。そういう存在なのだ。神田日勝とは。


わたしが最初に見た神田日勝の絵は、北海道立近代美術館に展示されていた「室内風景」だった。子供だった自分がこの絵を見た時の衝撃はちょっと忘れられない。壁に貼られた新聞のリアルな描写が、却って描かれた過去の時代を強調していたという驚き。そして、この絵を描いた人は既に故人であった事。自分の父親よりも後に生まれたのに!
32歳の若さで没したという事実。ただそれだけで、この北の大地で生きる事の過酷さを雄弁に語っていた。農業をしながらの精密描写は、高度経済成長期にあっても共存し難いものだったのだ。


短い生涯だったので、この美術館に展示されている作品数はそれ程多くない。先に挙げた「室内風景」は札幌に行かないと見れないし。それでも馬や牛等の動物シリーズは充実しているし、サイケな時代に反応したカラフルな画室シリーズも展示されているし、絶筆となった馬の絵は、美術館のシンボルマークにもなってるだけあって、展示室の真ん中ら辺に掛けられている。あとは、ミレーを彷彿とさせる風景画とか。


絶筆となった馬の絵は、何で左端から完成形として描き始めたのだろうと不思議に思っていたのだが、実際に目の前にしてみると、残り時間の少なさを自覚していたからなんだろうなと、素直に納得出来てしまったのがまた不思議だった。


神田日勝の絵を見たのは本当に久しぶりの事で、昔見た印象と食い違っていたらどうしようという一抹の不安がない訳ではなかったのですが、全く変わらぬ佇まいで、どっしりと構えていてくれたのでした。しかも近年、新たな絵も発見されているようで、今までのイメージとはまた違った、穏やかな一面も見せてくれたのでした。見に行けて本当に良かったです。