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この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

モダン都市東京 日本の一九二〇年代

モダン都市東京―日本の一九二〇年代 (中公文庫)
この本は1980年代に書かれたものだけど、最近になって初めて読んだ。海野弘氏が1920年代の東京の風景を探しに、1982年の東京、時には地方を歩き回るのだが、その1982年の風景自体が既にレトロなものになっていて、今読むと二重に楽しめるという、新たな魅力が染み出てきている。
この本を生み出したのは編集者安原顕の手腕によるもの。というような事があとがきに書かれている。嗚呼伝説のマリ・クレールよ…*1


あの当時はまだまだ現役だった交詢社ビルや日比谷三信ビル等の写真が掲載されているのもぐっと来るけど、海野氏が深夜、外でものを書く為に、24時間営業の喫茶店を人から教えてもらったりするくだりを読むと、まだこの頃は深夜営業のファミレスすらそんなに普及していなかったよなーと思ったりもして。


それから、志賀直哉の「暗夜行路」は1910年代から中断を挟んで30年代までかかって書かれたのに、20年代の思想がすっ飛ばされていて解せないという中野重治の嘆きが掲載されているのが興味深い。それと、堀辰雄が20年代に書いた「水族館」を自らの経歴から削除してしまったのも。ともすればこの本のもうひとつの舞台である80年代も、そんな風にスルーされてしまう事がなきにしもあらずだからだ。80年代は「バブル」のキーワードで済んでしまう程単純ではない。


あと、村山知義設計による吉行あぐり美容室の、奇抜なマヴォ建築の話を読んでいたら、ふと昔、都心のビルにマヴォ風内装の美容室(理髪店か?)がまだ残っている、という話を人から聞いた事を思い出した。その頃で既に閉店間近の噂だったから、今はないんだろうけど、一度でいいからその内装を見てみたかった。


ここ数年でどんどん戦前の建物が取り壊されている。建物自体が寿命を迎えているからなんだけど、もう記憶の中でしか存在し得ないというのは、何だかとても寂しい。
私が東京の町を歩き出したのはこれよりもうちょっと後だけど、この時代はまだ、戦前の雰囲気を留めている所がいっぱいあったんだなというのを、この本を読んで改めて思い知らされた。

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現在中公文庫から出ている本は新装改版。最初に出た時はこんな表紙だった。イメージが随分違う。これは図書館から借りてきたもの。よく見えないと思うけど、イラストは本文でも紹介されていた太田三郎

*1:いや、これを連載していたのは『海』という雑誌だったんだけど、この名前を見るとつい…