Brideshead Revisited
直訳すれば「ブライズヘッド再訪」
現在は吉田健一訳の「ブライヅヘッドふたたび」(asin:4835442687)と、小野寺健訳の「回想のブライズヘッド」(asin:4003227727)(asin:4003227735)が出回っているのだが、今回読んだのは小野寺健訳の方。
舞台は第二次世界大戦真っ只中のイングランド。39歳になるチャールズ・ライダーの連隊は、偶然ブライズヘッドという、彼が昔訪れた事のある広大な邸宅の敷地に駐屯する。これをきっかけに、この侯爵邸の次男で、大学時代の大親友だったセバスチアンと過ごした自分の青春の日々を回想していく。というのが大雑把な筋。
戦場の世界と回想する1920年代とのコントラストが鮮やか。回想シーンからはぐいぐいと引き込まれていき、一気読みしてしまった。
特に冒頭のセバスチアンの描かれ方が魅惑的!当時の、「ブライト・ヤング・ピープル」と呼ばれた若者像をそのままなぞったかのよう。自分で車を乗り回し、傍にはいつもテディベアのアロイシアス。信じられないが、当時本当にテディベアを持ち歩く男の子がいたようなのだ。
1923年当時のセバスチアンのファッションはこんな風に書かれている。
薄ねずみ色のフランネルの服に、白いデシンのワイシャツ、それにこれはわたしのだったが、切手の模様のシャルヴェ製のネクタイだった
「回想のブライズヘッド(上)」より
最初の頃のセバスチアンの容姿は、本を読んでいる間中ずっと、同じくブライト・ヤング・ピープルを体現したセシル・ビートンの若い頃を思い浮かべていた。なんか、被ってるような気がしたので。
実は、この作品の作者であるイーヴリン・ウォーは、ビートンをガキの頃から知っていたそうで、ビートンより1つ年上でガキ大将だった彼は、女の子みたいなビートンをいじめていたらしい。ちなみに、ビートンはジョージ・オーウェルとも少年の頃に知り合っていたそう。親しくはならなかったが。(そりゃそうだ) 何なんだこのスモールサークルは。
岩波文庫の表紙絵は、若い頃のウォーなのだが、見よ!この弱い者いじめがしたくてウズウズしてそうな目付きを!
20年代当時のビートンのファッションはこんな風。
セシルは半ズボンに薄黄色のストッキングをはき、チロリアン・ジャケットを着て、ボタンの穴にガーデニアをさしていた。
「ユリイカ」1991年6月号より。
オスカー・ワイルドにインスパイアされたような格好。何だ、現実にいた男の子の方がずっと派手じゃないか。
ウォー自身、オックスフォード時代にセバスチアンのモデルになった人物と出会っているので、セバスチアンがビートンみたいな男の子でないのは明らかなんだけどね。だいたいビートンはウォーの事を敵だと思っているし。ウォーの方は、「ポール・ペニフェザーの冒険」という作品で、ビートンの人格を意地悪く模した写真家を登場させている。
物語の重要な登場人物の1人であるアントニー・ブランシュの初登場時の服装はこんな感じ。
派手な白い縞が入ったしゃれたチョコレート色の上下に、スエードの靴をはいて大きな蝶ネクタイをしめ、部屋に入ってくるなり黄色い革の手袋をぬいだ。
「回想のブライズヘッド(上)」より
こんな格好で「孔雀のように傲然と歩いている」のだ。しかし、オカマというよりもマジシャンか、或いは漫才師を彷彿とさせるファッションだな。
この小説は1981年にドラマ化、2007年に映画化されている。いずれも未見。
- ドラマ版
Brideshead Revisited [DVD] [Import]
- 出版社/メーカー: Acorn Media
- 発売日: 2006/10/10
- メディア: DVD
- 購入: 1人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
- 映画版
- 出版社/メーカー: ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント
- 発売日: 2009/03/18
- メディア: DVD
- 購入: 1人 クリック: 36回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
ドラマの方は日本でも放送されていたようだけど、ノーチェック。邦題が「華麗なる貴族」ではねぇ…。
映画の方は、日本ではDVDのみの公開。こっちの邦題も原作のテーマから大きく外れている。
見所はYouTubeにポロポロ落ちているので、読んでいて想像力の及ばない部分はそれを見ながら補っていました。
2005年にはこのドラマのドキュメンタリー番組まで制作されていて、根強い人気ぶりが伺えます。
映像しか追ってないのですが、途中で1981年当時の音楽シーンを振り返っていて、このドラマがきっかけでニュー・ロマンティック・ムーブメントが巻き起こったような展開になっていた。そうなのか!?そういえば同じ頃「炎のランナー」という映画も制作されていたっけ。
思い出せるアルバムを並べてみる。
最終的にはこれでとどめを刺す。のか?
このバンドも忘れちゃいけない。
ニューロマのブームが過ぎ去って20年以上(ぼちぼち30年!)経つけど、ブライズヘッドの主人公チャールズのように、あの当時をノスタルジック、かつロマンティックに振り返られる人材は果たして存在しているのだろうか?あの時代を振り返る為に「再訪」していたのは、結局このドラマの方だった。なんて、こんなんじゃシャレにもならんわな。
あれ、こんなオチ(にもなってないけど)にするために書き始めたわけじゃなかったのに…。