この世はレースのようにやわらかい

音楽ネタから始まったのですが、最近は美術、はたまた手芸等、特に制限は設けず細々と続けています。

イングリッシュマン・イン・ニューヨーク

第18回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて鑑賞。

私がクエンティン・クリスプの存在を知ったのは、チェリー・レッドの名コンピ、「Pillows & Prayers」(asin:B00004SC6Z)に於いてである。なんて書けるような情報強者ではなかった。やっぱりこの映画のタイトルにもなっているスティングの同名曲が世に出て初めて知る事になる。プロモーション・ヴィデオに登場する姿には何とも言えぬ気品が感じられ、圧倒的な存在感がありました。


映画は、73歳でニューヨークに移住してから終焉を迎えるまでが描かれている。丁度1980年代が始まった頃で、当時話題になった映画なんかも出て来た。クリスプさんは雑誌に映画評も書いていたらしい。「E.T」を見て、「主役なのに被り物を付けてばっかで可哀想。」というような感想を呟いていたんだけど、確かクリスプを演じるジョン・ハートは、それに先立つ数年前、「エレファントマン」という更にきっつい被り物映画で主役を張ってたよな。と、ここは突っ込み所ではない筈なんだけど、私の中ではジョン・ハートというと、ジョン・メリックのイメージがこびりついているので、つい。
クリスプさんの映画評って読んでみたいんだけど。当時の、ほぼ同い年の淀川長治氏による評と読み比べてみたいものだ。


母国イギリスではその半生がドラマ化され、それなりに有名にはなっていたけれども、アメリカではそれ以上に、もの凄く熱狂的に受け入れられる。オカマの先駆者として。それと、アイロニカルな話術の巧みさによって。途中、AIDSへの軽はずみな発言で世間からの強烈なバッシングを受けるのだが、それでも生涯アメリカに留まった。
アメリカって伝統的で価値あるものに弱い国民でもあるんだよな。復活したシャネルを熱狂的に受け入れたのもアメリカだったし。
クリスプが去って行った頃のイギリスではボーイ・ジョージなんかがぶいぶい言わせてたけれども、映画の中では彼ではなく、マーク・アーモンドのエピソードが語られていたのが面白かった。


アメリカでの評価がイギリスにも逆輸入され、晩年は英国映画出演のオファーが来たり、ショウのオファーもやって来る。既に高齢で病気持ちだったにも関わらず、せっせと受け入れようとする姿は鬼気迫っている。最後の方でデトロイトかどこかのトークショウに招かれて出かけて行くのだが、ここでチラッとバックに流れるのがThe Smithsの「How Soon is Now ?」。ああ、来たよ来たよ来たよ!!今やスミスはゲイ映画の定番とも言えるかもしれないが、きっとこれも付箋。クリスプは、この後危険を省みずに帰って行ったイギリスでその生涯を終える。マンチェスター公演の一日前に。


結構淡々と物語は進行するので、さらっと見れちゃうんだけど、クリスプさんの名言がいちいち面白いので、メモを取りながら見たかったです。

以下、思い付いた事を少し。


クリスプ本人はとにかく鼻の造形が凄いと思う。ジョン・ハートの鼻って、あれ、作ってないよね?映画を見ている間中、鼻ばっか気になったのでした。


マンハッタンの空の下にWTCがぼんやりとそびえ立っていた。1シーンだけだったが。


クリスプさんのクラシカルなファッションがステキ。あの格好でどんなクラブにも平気で通っちゃうんだから。流石にマッチョ専門の所では追い出されたけど。ゲイのファッションだって、時代ごとの流行によってかなり変化しているんだよな。
クリスプさんは、スタイルは崩さなかったけど、カウボーイハットを被る事でアメリカの水に馴染んだと意思表示したのかも。